太陽光駆動の皮膚貼り付け型光脈波センサーを開発:大気中での駆動安定性を向上
東京大学大学院工学系研究科の横田知之准教授らによる研究グループは、太陽光で駆動する皮膚貼り付け型の光脈波センサーを開発した。
常時装着し連続計測が必要な医療センサーなどに応用
東京大学大学院工学系研究科の横田知之准教授と甚野裕明特任研究員および、染谷隆夫教授らの研究グループは2021年4月、太陽光で駆動する皮膚貼り付け型の光脈波センサーを開発したと発表した。
開発した光脈波センサーは、有機EL素子や有機フォトディテクター、有機太陽電池を集積したデバイスである。実験ではこのセンサーを太陽光による自己発電で駆動させ、脈波信号を計測することに成功した。
研究グループはまず、大気安定な電子注入層と透明電極を組み合わせた逆型構造の有機EL素子を開発した。有機ELの電子注入層にドープをされたポリエチレンイミン層を導入することで、従来の順型構造に比べ高い大気安定性を実現できたという。実験で、11時間以上連続駆動させた後でも、輝度は初期の70%以上に保たれていることを確認した。これは、現行の超薄型有機ELに比べ約3倍の値だという。発光効率は11.7cd/Aを達成している。
次に、「皮膚貼り付け型の光脈波センサー」を試作した。組み合わせる有機EL素子や有機フォトディテクター、有機太陽電池といった素子は、極めて薄く柔軟性に優れているため、皮膚に長時間貼り付けても、装着感は少ないという。もちろん、太陽光で発電し駆動させるため、外部電源との接続などは不要である。人体に貼り付けて行った実験では、太陽電池の電力のみでセンサーを駆動させ、脈拍77bpmの計測に成功した。
開発した技術について研究グループは、非侵襲で連続した生体情報の測定が必要な、常時装着型医療センサーなどへの応用を期待する。
なお、今回の研究は東京大学の研究グループと、理化学研究所(理研)開拓研究本部染谷薄膜素子研究室の福田憲二郎専任研究員、広島大学大学院先進理工系科学科の尾坂格教授らが共同で行った。
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