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電源供給配線網(PDN)をシリコンダイの裏面に配置して電源をさらに安定化:福田昭のデバイス通信(302) imecが語る3nm以降のCMOS技術(5)(2/2 ページ)
今回は、CMOSロジックの基本セル(スタンダードセル)に電源を分配する電源供給配線網(PDN:Power Delivery Network)のレイアウトを解説する。
BPRとBS-PDNの組み合わせが電源雑音を45%低減
埋め込み電源線(BPR)と裏面の電源供給配線網(BS-PDN)を製造する工程は、かなり複雑だ。微細なTSV(μTSVあるはnTSV)によってBPRとBS-PDNを接続するとともに、シリコンウエハー裏面に金属配線を形成する工程が必要である。
微小なTSV(nano-TSV(nTSV))を介した裏面側配線と表面側配線の接続構造例。左は一般的な接続構造。右は裏面側配線(電源供給配線網(PDN))と埋め込み電源線(BPR)をnTSVで接続した構造。出典:imec(IEDM2020のチュートリアル講演「Innovative technology elements to enable CMOS scaling in 3nm and beyond - device architectures, parasitics and materials」の配布資料) (クリックで拡大)
例えば、BPRを形成済みのシリコンウエハー(1stウエハー)を、別のシリコンウエハー(2ndウエハー)に貼り合わせる。それから1stウエハーを研削し、さらにはエッチングによって10μm前後にまで薄くする。
裏面側に電源供給配線網(BS-PDN)を製造する工程(前半)。出典:imec(IEDM2020のチュートリアル講演「Innovative technology elements to enable CMOS scaling in 3nm and beyond - device architectures, parasitics and materials」の配布資料) (クリックで拡大)
それからBPRと接続するnTSVを形成する。nTSVの埋め込み金属は銅(Cu)である。nTSVを形成後に、シングルダマシンプロセスによってCu配線層のBS-PDNを製造する。
裏面側に電源供給配線網(BS-PDN)を製造する工程(後半)。出典:imec(IEDM2020のチュートリアル講演「Innovative technology elements to enable CMOS scaling in 3nm and beyond - device architectures, parasitics and materials」の配布資料) (クリックで拡大)
CMOSロジックの基本セル(スタンダードセル)でBPRおよびBS-PDNの効果を評価してみた。6トラック(6T)の基本セル(BPRなし、FS-PDN)を基準にすると、BPRを導入した5トラック(5T)の基本セル(FS-PDN)は回路ブロックの面積が19%減少し、電源電圧降下が45mVから35mVに減少した。ここでBS-PDNを追加すると回路ブロックの面積は変わらないものの、電源電圧降下は25mVとさらに低下した。6Tセルに比べ、電源電圧の変動を約45%に抑えられる。
BPRとBS-PDNの効果。左は回路ブロック(コア)の面積と電源電圧降下の関係。右は回路ブロックの温度分布(IRドロップの大きさを反映)。出典:imec(IEDM2020のチュートリアル講演「Innovative technology elements to enable CMOS scaling in 3nm and beyond - device architectures, parasitics and materials」の配布資料)
(次回に続く)
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