前進し続けるIntel:製造委託は成熟したアプローチ
Intelは2021年1月21日(米国時間)、業績発表を行った。それを見ると、同社の“終末時計”のカウントダウンに、少なくとも数秒は追加されたといえるだろう。ただし、完全に楽観視できるわけではなさそうだ。スピンドクター(情報操作が得意な人)たちは、Intelの2020年の業績のマイナス面だけを簡単に強調することができる。また、プラス面よりも欠点の方に反応を示す投資家たちもいる。
Intelでは最近、CEOが交代した。Bob Swan氏が退任し、エンジニアリング分野のベテランであるPat Gelsinger氏が後任に決まった。Gelsinger氏は同社にとって、過去の栄光とのつながりを持つ、頼みの綱のような存在であり、救世主になると期待されている。一方で、「Intelを救うためにできることはまだたくさんあるのだろうか」という疑問の声も上がっている。一人で偉業を達成することは可能だが、Intelは巨大企業である。一人でできることには限りがあるのではないだろうか。
Intelは2021年1月21日(米国時間)、業績発表を行った。それを見ると、同社の“終末時計”のカウントダウンに、少なくとも数秒は追加されたといえるだろう。ただし、完全に楽観視できるわけではなさそうだ。スピンドクター(情報操作が得意な人)たちは、Intelの2020年の業績のマイナス面だけを簡単に強調することができる。また、プラス面よりも欠点の方に反応を示す投資家たちもいる。
Intelの株式は、2020会計年度の業績発表が行われた2021年1月21日当初、急激に上昇したものの、その後はそれほど劇的な展開もなく低迷傾向が続いている。
最も単純な分析では、Intelの2020年の1株当たりの利益は前年比で5%増加し、1株当たりの年間配当金も1.39米ドルに上昇するなど、少なからず良いニュースがある。また、2020年の粗利益は、前年比8%増となる779億米ドルだったという。
NANDフラッシュ売却は良い判断
一方で、純利益と売上純利益率が前年比で減少するという、異なる様相も見てとれる。業績報告に目を通していくと、NAND型フラッシュメモリ事業が幾分か足を引っ張っていることが分かる。このため、NANDフラッシュ事業部門をSK hynixに売却することを決めたのは、良い判断だったといえるだろう。規制当局の承認を得られるのが2021年末頃の見込みであるため、手続き完了までにはしばらく時間がかかりそうだ。それでもIntelにとっては、コモディティ分野を回避して、利益率の高いエンタープライズ分野に集中することにより、これまで数十年間にわたって同社を特徴付けてきた最先端主義を貫けるため、良い結果がもたらされることになるだろう。
Intelが不採算事業の存在を認識し、それに対応しているのであれば(短期的に見ると、NAND事業は2020年前半に、6億米ドルの営業利益をあげている*))、優れた業績を達成しているのはどの部門なのだろうか。
*)参考:Nasdaq「Intel to Divest NAND Memory Business: Key Takeaways」
2020年は全体的に、(既に“ステイホーム”の状態である上に)自宅学習や在宅勤務が推奨された年であったことから、「Intelは、個人向けPCの販売台数が増加したことによって、同社の既存のPC向けマイクロプロセッサの売上高が増加し、利益を得られたのではないか」という臆測がすぐに浮かんでくるだろう。確かにその考えは正しいといえる。Intelの業績発表を見ると、ノートPCの需要が20%増と非常に高いために、売上高が10%減となったデスクトップやサーバプロセッサなど、一部の減少分が相殺されていることが分かる。
Intelのクライアントコンピューティンググループ(CCG)の2020年の売上高は前年比で9%増加した。営業利益率は安定していて、2020年第4四半期におけるCCGの営業利益は、前年同期比で10%の増加となった。
好調なデータセンター事業
データセンターグループ(DCG)の業績は好調で、2020年の売上高は前年比11%増となった。市場セグメントでは、エンタープライズおよび政府機関向けの売上高は減少したが、クラウドサービスプロバイダー向けと通信サービスプロバイダー向けの2つは、ともに大きく伸びた。Intelは、5G(第5世代移動通信)の展開により、今後の見通しがよいことを示唆している。
Intelは2021年第1四半期の見通しについて、売上高、営業利益率、1株当たり利益が大幅に減少し、少し不安定なスタートを切ることを示している。
Intelの今後については、さまざまな臆測や見解がある。新しい製造プロセスノードの展開が遅れていることから、製造をアウトソースすべきとの圧力もかかっているようだ。Intelは2021年後半にも複数のプロセッサの製造をTSMCに委託するとされている(参考:Trendforce)。オペレーションを可能な限り柔軟に保つために一部の製品の製造をアウトソースするのは、成熟したアプローチなのではないか。Intelは、成熟した製品を維持しつつ最先端製品も開発し続ける必要があるが、プレミアムでない設計については、費用対効果が最も高い製造方法の代替案を見つけることが急務だろう。
困難な道のりかもしれないが、Intelの地位は強く、人材もいる。“Intelに終焉(しゅうえん)が近づいている”というニュースは、誇張され過ぎではないだろうか。
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 赤字続きでもIntelが開発を止めない3D XPointメモリ
今回は3D XPointメモリ(Intelの製品ブランド名は「Optane」)の講演部分を説明する。 - TSMCが設備投資を倍増、先端プロセスの開発を強化
TSMCは、今後数年間の堅調な成長を期待して、2021年の設備投資予算を2020年比でほぼ2倍の280億米ドルとした。世界最大のチップファウンドリーであるTSMCは、2021年に設備投資に250億〜280億米ドルを投じることとなる。 - Gelsinger氏の“帰還”、Intelにとっては好機か
CEO(最高経営責任者)の継承は、非常に重要である。最近の報道によると、IntelのCEOであるBob Swan氏が近々退任し、その後任としてPat Gelsinger氏が就任するという。一方Qualcommは、現プレジデントであるCristiano Amon氏にCEOの後任を託すとしている。 - “天才設計者”Jim Keller氏がAI新興企業のCTOに
著名なチップ設計者アーキテクトのJim Keller氏が、カナダのAI(人工知能)チップ新興企業Tenstorrentに社長兼CTO(最高技術責任者)として入社した。Tenstorrentの取締役会にも加わる予定だ。Keller氏は、過去にAMD、Intel、Tesla、Appleなどに勤務したことがあり、長いキャリアの中で多くの実績を残している。 - 異種デバイスの融合を実現する3次元集積化技術
今回は、異種デバイスの融合を実現する3次元(3D)集積化技術の概要を説明する。 - 5nmプロセッサで双璧を成すApple「A14」とHuawei「Kirin 9000」
今回は、5nmチップが搭載されたHuaweiのフラグシップスマートフォン「Huawei Mate 40 Pro」の分解結果をお届けする。同じ5nmチップであるAppleの「A14 BIONIC」とも比較する。