CNTを用いた振動版、車載スピーカーに採用決まる:塊をほぐして母材内に高分散
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)とGSIクレオスは、研究プロジェクトで開発したカーボンナノチューブ(CNT)に関する成果が実用化され、車載用スピーカーに採用されたと発表した。
NEDOプロジェクトでの研究成果を実用化
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)とGSIクレオスは2021年7月、研究プロジェクトで開発したカーボンナノチューブ(CNT)に関する成果が実用化され、車載用スピーカーに採用されたと発表した。
NEDOは、2010年度より「低炭素社会を実現するナノ炭素材料実用化プロジェクト」に取り組んできた。この中でGSIクレオスは、2014〜2016年度に「カーボンナノチューブ超高分散材料の大量生産技術の開発」をテーマとして、CNTの特長を生かしつつ、複合材料など工業製品への応用を可能にする技術を開発してきた。
CNTが持つ性能を生かすには、強く固まった塊をほぐしCNTを母材内に高分散する必要がある。ただ、従来のように高いエネルギーを加えてほぐすと、CNTが破壊されるなどして十分な機能が得られないこともあった。
GSIクレオスはその後も、独自製品のカップ積層型カーボンナノチューブ(CSCNT)を用いて、CNTの塊を適切に「ほぐす」技術の開発に取り組んできた。そして、分散工程におけるCNTの短化現象を低減し、CNTの長さや結晶構造を維持したまま、高分散させることができる技術を開発した。
開発した方法でほぐし処理を行った後のCNTは、アスペクト比が30以上になることを確認した。充填(じゅうてん)する強化材のアスペクト比が30以上であれば、機械的特性の向上に効果があるといわれており、CNTが持つ高い性能を実現できることが分かった。
ほぐしたCNTをさまざまな母材樹脂に添加し、CNT複合材料としての機械的性能を測定した。実験では、炭素繊維強化樹脂(CFRP)の母材樹脂内に、今回の「ほぐしCNT」と、これまで行われてきた「解砕法でほぐしたCNT」を、それぞれ分散して筒状試験体を作製した。耐衝撃試験では、これらの筒状試験体に所定の角度から動的荷重(衝撃)を与えた。
耐衝撃試験の結果から、ほぐしCNTを充填したCFRPは、解砕法でほぐしたCNTを充填したものと比べ、耐衝撃性能が2倍以上になることを確認した。
開発したほぐしCNTを振動板に充填すると、音を伝える速度が向上し、クリアな高音や低音の分解能、ゆがみ感、臨場感といったスピーカーに必要な特性が大きく向上したという。このため、三菱電機製の車載用スピーカーに採用されることが決まった。
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