ADAS/自動運転関連事故の報告命令、重要トピックQ&A:安全な自動運転実現に向け(3/3 ページ)
米運輸省道路交通安全局(NHTSA)によるSAE(Society of Automotive Engineers)レベル2のADAS(先進運転支援システム)搭載車に関する衝突事故の報告を義務付ける事故報告命令。その重要トピックについて、NHTSA独自の言葉を用いながら、Q&A形式で概要をまとめる。
命令の目標
NHTSAの目標は単純明快で、「とにかく多くのデータを収集すること」だといえる。まずは初期段階の目標として、SAEレベル2のADAS導入や、ADS搭載車両の隊列走行の試験/運用などから、潜在的な安全上の問題点を特定することを目指す。現在実行中または将来的に実施予定の、全てのADS搭載車両の試験の中から、ドライバーレス自動運転車の衝突事故発生時におけるパターンを突き止めようとしている。
またNHTSAは、ADSの隊列走行が現在成長を遂げている中、例えばロボタクシーや自動運転トラック、固定ルート走行の自動運転車、自動運転配送車などの運用上の問題点に関しても、体系的に特定していきたい考えだ。
メリット
ADASやADS搭載車両の衝突事故に関する情報データベースが拡大することによって、さまざまなメリットを享受できるようになる。NHTSAと自動車業界は、安全性の向上と、未来のADS搭載車両の設計改善を実現するための知識を得ることができる。また、自動車メーカーやサプライヤー向けに、ADAS/ADS搭載車両のための優れた安全性評価を実現できるようになる。さらに一般消費者向けには、ADSの安全性に関するより良いデータを提供することも可能だ。NHTSAは、ADSの問題点を早い段階で特定することで、必要に応じてリコールや規制を実施することができる。
期待される改善は
この段階でのデータ収集は、うんざりするほど面倒な作業だ。米国内で販売されている自動車の大半は、イベントデータレコーダー(EDR)や、航空宇宙分野の専門用語で言うところのブラックボックスなどを搭載している。指定された組織が、EDRのデータを無線通信で自動収集できるようになれば、大きな改善を実現することになるだろう。これは、現在の命令では現実的な手法とはいえないが、レベル4のADS搭載車両の量産が実現すれば、検討に値するのではないか。
今後3年の間に、ADSデータの必要性はなくならない。それどころか、この先数十年の間に、隊列走行や自家用車としてADS自動車の利用が拡大していけば、安全性や技術を迅速に改善していく上で、さらに多くのデータが必要になるだろう。
要約すると、これはNHTSAとADAS/ADS市場に素晴らしい利益をもたらすものになるといえる。それは安全性と将来の自動運転車設計の改善に還元されるだろう。NHTSA、ADS業界は、上記で説明したEDRによる自動衝突データ収集を検討すべきだ。そのようなデータ収集は、より詳細なものとなり、安全性とADS技術にとってより多くの利益をもたらすだろう。
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
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