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自動車メーカーはCANバスを捨て去る時が来るのか車載アーキテクチャの移行(2/2 ページ)

車載エレクトロニクスシステムアーキテクチャが混乱に陥っている。こうした状況は、主に二次電池式電気自動車(BEV:Battery Electrified Vehicle)の新興企業の間で約10年にわたって続いており、現在ではそのスピードが加速している。彼らは歴史的な制約やなじみがある好みの設計というものがなく、エレクトロニクスアーキテクチャを白紙の状態からスタートすることが可能なためだ。

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CANバスアーキテクチャの問題点


CANバスの配線

 CANバスはこれまで約30年間にわたり、自動車業界向けの主力とされてきた。しかし、今やその機能は、さまざまなバージョンのEthernetに大きく差をつけられている。CANにも多くの改良が加わり、中でもCAN-FDはさまざまな性能向上を実現した。CAN-FDは2012年にリリースされ、短期的にはうまく機能したが、長期的な解決策にはならない。またCAN-FDには、CANが将来的に、システムアーキテクチャの中で常に支配力のあるデザインウィンを確保できるようになるまでの力は十分になかった。

 CANバスは、Ethernetと比べ速度が低い。FlexRay技術で置き換えられる可能性はあるが、将来的に性能向上を実現しても、勢いに乗るEthernetに対抗することは難しい。サイバーセキュリティ上の脆弱性が指摘されており、それが欠陥として広がっていくだろう。

 CANバスの主なメリットとしては、膨大な開発や採用事例をベースとしたサポートの充実が挙げられる。しかしこうしたメリットは、今後数年間にわたって減少していくとみられるため、単なる時間稼ぎにしかならないだろう。

SOA/Ethernetのメリット

 SOAは、ソフトウェアプラットフォームやコンポーネントがAPIを使用して、どのような方法で相互通信するかを定義する。SOAの主なメリットとしては、再利用可能であるという点と、サービスインタフェース経由で相互運用可能なソフトウェアプラットフォームであるという点が挙げられる。ハイテク業界では、これらのメリットを活用することで、大規模なSOAエコシステムを構築している。

 SOAはこうしたメリットによって、半導体チップやシステム、ソフトウェアプラットフォームなどの分野を皮切りに成長を拡大し、クラウド、SaaS(Software as a Service)プラットフォームなどで急成長を遂げた。自動車業界は既に、このようなSOAベースのSaaS、クラウドプラットフォームによるメリットを享受しているようだ。

 またAI(人工知能)開発の分野も、SOAの将来的な性能向上と技術進展を頼りにしている。機械学習やニューラルネットワークなどのAI分野は今後、自動車システムアーキテクチャへの影響力を増していくだろう。特に、自動運転車の高性能コンピュータシステムは、AIやSOAへの依存度が高い。

SOA-Ethernetのイノベーション潜在力

 SOAとEthernetシステムは、さまざまな業界から多大な投資を受けた成果として、イノベーションを実現しようとしているところだ。自動車システムの多くが自動車業界独自のものであった頃と比較して、これらは既に業界に多くのイノベーションをもたらしている。

 SOA-Ethernetシステムへの複数の業界からの投資は、ソフトウェア、SaaS、クラウドプラットフォームを含む自動車システムアーキテクチャに大きな恩恵をもたらすだろう。また、自動車の電子システムに使用されているプロセッサ、メモリ、センサー、その他のテクノロジーにも同様の進歩と革新がもたらされるだろう。

クリーンシートアーキテクチャを採用する自動車メーカー

 SOAとイーサネットをベースにしたクリーンシートアーキテクチャを採用している企業は、BEVのスタートアップ企業に限られている。これらの企業はTeslaの背中を追っているが、いくつかの企業はTeslaの成果を超えている。その理由は、Ethernetのバージョンの選択肢が多く、SOAのエコシステムが充実しているからだ。

 自律走行車の新興企業も、少なくとも自動運転システムには、SOA-Ethernetシステムアーキテクチャを使用している。問題は、従来の自動車メーカーがいつこれに追随するかということであり、そのメリットを納得させるには、少なくともテストケースが必要になる。

まとめ

 クリーンシートアーキテクチャと呼ぼうが、SOA&Ethernetベースのシステムアーキテクチャと呼ぼうが、それが主流になるのは時間の問題だろう。SOA-Ethernetの利点はあまりにも大きいので、早急に変換することが理にかなっている。

 大手自動車メーカーは、パワートレインのシステムアーキテクチャを大幅に変更する必要があるBEVについて、SOA-Ethernetのシステムアーキテクチャに移行する機会が何度もあった。特に、Teslaや他のBEV新興企業との競争が激化していく中で、従来の設計が持つフライホイール効果*)が、変更を困難にしているのだろう。

*フライホイール効果:Jim Collins氏による著書「Good to Great」に書かれた言葉。最初は重すぎて全く動かせなかった円盤状のフライホイール(弾み車)が、少しずつ押し続けることで回転し始め、いったん回り始めるとさらに回転の勢いが加速していくこと。

 自動車メーカーは現在、SOA-Ethernetアーキテクチャを開発プログラムに導入することで手一杯なのかもしれないが、その間に、BEV新興企業は、より強力な競争相手となるシステムアーキテクチャの優位性を構築しているだろう。

 自動車業界におけるSOA-Ethernetの混乱を、スマートフォン業界における「iPhone」の混乱と比較するのは大げさかもしれない。実現には時間がかかるだろうが、筆者は、これは同じレベルの破壊だと思っている。少なくとも大手自動車メーカーの幹部が、こうした”iPhoneの影響”を理解し、SOA-Ethernetアーキテクチャの潜在的な破壊力と、この時流に乗る企業にとってのメリットにもっと注意を払ってくれることを期待している。

【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】

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