AI対応IoT向けフュージョンプロセッサを発表:米Alif Semiconductor(2/2 ページ)
米国のAlif Semiconductorは、これまでステルスモードで開発を進めていたスケーラブルなフュージョンプロセッサファミリーを発表した。MPUやMCU、人工知能(AI)および機械学習(ML)に加え、セルラー接続やセキュリティを単一デバイスに統合したもので、人工知能(AI)を用いたIoT(モノのインターネット)市場をターゲットとしている。
「バッテリー寿命」の課題を解決する独自技術「aiPM」
両氏は、新しいフュージョンプロセッサとマイクロコントローラー(マイコン)の統合性と機能性のレベルを力説しているが、これらは、「自律的インテリジェント電源管理(aiPM:autonomous intelligent Power Management)」と呼ぶ独自の電力管理サブシステムを使用して、性能と長時間のバッテリー寿命のために設計したという。
IoTデバイスの多くはバッテリー駆動なので、ローカル処理やAI/ML、無線通信なども実行する必要があれば、バッテリー寿命が非常に重要な課題となる。同社のaiPM技術は、チップ内のリソースに電力が供給されるタイミングをきめ細かく制御することができる。この独自技術によってクラス最高の低消費電力動作を実現し、小型バッテリーでのインテリジェントデバイスの長時間動作を可能にした。例えば、3.3Vで動作する場合、消費電流は、ストップモード(リアルタイムクロックが動作しウェイクソースがアクティブな状態)で1.0μA未満。動作モードでは、効率のよいCortex-M55上でSRAMから有用なコードを実行すると18μA/MHzになる。
aiPM技術は、内部の電力調整とシーケンシング、レギュレーション(外部の電源管理ICは不要)、相互接続バスファブリックへの緊密な接続、ソフトウェア設定などの独立したスマートパワードメインを複数融合させたもので、アクティビティーがないときは自律的にシャットダウンすることができる。つまり、必要なときにチップの必要な部分だけ電源をオンにし、必要でないときは電源をオフにする。これによって、複雑なクアッドコアデバイスでも、必要なときに専用の低電力小型MCUのように動作し、バッテリー寿命を延ばすことができる。
aiPM技術に加えて、Alif Semiconductorのマルチコアデバイスは、高効率のCortex-M55とEthos-U55のペアが、周囲の状況(振動や音、画像)を感知しながら非常に低い電力レベルで動作するように設計されている。
Cortex-M55は、必要に応じてデバイスの他のコア(高性能のCortex-M55/Ethos-U55、Cortex-A32、グラフィックスコア)を段階的に起動し、緊急のユースケースをベースとしてワークロードを実行する。不要になれば、aiPMがそれらを停止する。
Ali氏は、「当社のソリューションの検証は強力で、ティア1顧客のパイプラインも良好だ」と説明する。Microsoftの「Azure」エッジシリコンデバイス戦略の責任者であるJerome Schang氏は、「Alif Semiconductorが提供するソリューションは、市場の大きな隙間を埋めるものだ。当社は常に、エッジ体験のための最も効率的な技術プラットフォームを探しており、EnsembleとCrescendoファミリーは、当社の顧客ニーズによく合致している」と述べる。
Armも、この新製品ファミリーを支持している。ArmのIoTおよび組み込み担当バイスプレジデントを務めるMohamed Awad氏は、「次世代のIoTアプリケーションには、よりインテリジェントで安全なAI対応のエンドポイントデバイスが大量に必要となる。Armの実績ある技術をベースにしたAlif Semiconductorの新製品ファミリーは、AIの可能性を解き放ち、IoTの継続的な成長を促進する革新的なソリューションの開発を可能にする」と評価した。
Alif Semiconductorは、米国とインド、シンガポールに200人の従業員を擁し、本社を米国カリフォルニア州プレザントンに置く。SoC(System on Chip)設計はカリフォルニア州アーバイン、運営はシンガポール、ソフトウェア開発はインドのバンガロールで行っている。Ali氏は、「当社にとってセルラー向けIPを全て所有することが非常に重要だったため、インドの4G(第4世代移動通信)開発チームを買収した」と述べている。Alif Semiconductorが買収したインドのチームは、MYMO Wireless Technologyだ。
Ali氏とKazerounian氏自身も、それぞれ成功実績がある。Ali氏は、Cavium(2017年にMarvell Technologyが60億米ドルで買収)を共同設立した。それ以前は、Malleable Technologiesのマーケティングセールス担当バイスプレジデントを務め、創設メンバーとして経営に携わった(Malleable Technologiesは2000年にPMC Sierraに買収された)。この他、Samsung Electronicsでエグゼクティブディレクターを務め、フラッシュメモリとCPU事業を立ち上げた経歴も持つ。
Kazerounian氏は、マイコンや組み込み処理、コネクティビティ分野の業績で知られている。同氏は、Atmelが2016年に買収されるまで、同社のマイコンおよびコネクティビティ事業部の責任者を務めた。それ以前は、旧Freescale Semiconductorの車載、産業、マルチマーケットソリューション製品グループを率い、マイコンやコネクティビティ、MEMSセンサー、アナログ製品部門を担当した。Freescale Semiconductorの前は、STMicroelectronicsでスマートカードセキュリティやプログラマブルシステムメモリ部門の責任者などの要職を務めた。
【翻訳:滝本麻貴、編集:EE Times Japan】
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