エッジAI発展に重要な「インメモリコンピューティング」:「Deep Edge AI」が加速、ST
欧州最大級の半導体国際学会「ESSCIRC-ESSDERC 2021」(2021年9月、オンライン開催)で、STMicroelectronics(以下、ST)のデジタル&スマート・パワー技術およびデジタル前工程製造を担当エグゼクティブバイスプレジデント、Joël Hartmann氏が講演。エッジAI(人工知能)の展望を語る中で、「インメモリコンピューティングへの移行」の重要性を訴えた。
欧州最大級の半導体国際学会「ESSCIRC-ESSDERC 2021」(2021年9月、オンライン開催)で、STMicroelectronics(以下、ST)のデジタル&スマート・パワー技術およびデジタル前工程製造を担当エグゼクティブバイスプレジデント、Joël Hartmann氏が講演。エッジAI(人工知能)の展望を語る中で、「インメモリコンピューティングへの移行」の重要性を訴えた。
STMicroelectronicsのデジタル&スマート・パワー技術およびデジタル前工程製造担当 エグゼクティブバイスプレジデント、Joël Hartmann氏 出所:STMicroelectronics
Hartmann氏によると、世界のインターネットのデータトラフィックは毎年50%増という急速な成長を続けおり、2030年には53万EB(エクサバイト)以上となるともいわれているという。同時にデータセンターのエネルギー消費が指数関数的に増加しているほか、IoT(モノのインターネット)デバイスも「10年ごとに10倍の規模になり、2030年には5000億個になるといわれている」(同氏)ほど急速に成長することで、世界のエネルギー消費量が拡大を続けることが予測されている。
Hartmann氏は講演で、同社が「Deep Edge AI」と呼ぶ、MCUやMPU、あるいはセンサーなどに搭載されるローカルAIプロセッシングの導入によって、拡大するデータ消費量およびエネルギー消費量の削減につながるうえ、遅延の最小化や個人データ保護、意思決定の自律性の確保、無線接続による設置、保守コスト削減といったメリットもあると強調。「Deep Edge AIデバイスの世界出荷台数は、2030年までに25億台に達する見込みだ」とした。
ただ、センサー本体などの「Deep Edge」にAIを組み込む場合、消費電力はミリワット以下に抑える必要が出てくる。この消費電力削減に有効な手段の1つとしてHartmann氏が挙げるのが、「インメモリコンピューティング」への移行だ。同氏は、「ニューラルネットワークや機械学習の演算は、基本的に積和演算が行われている。実際のところ、電力のほとんどはこの種の演算に費やされているのではなく、演算ユニットとメモリの間の通信に費やされているのだ」と説明する。
インメモリコンピューティングはメモリ内にコンピューティングを組み込むもので、プロセッシングユニットがメモリにコマンドを送り、そのコマンドによってメモリ自身が処理を実施、処理完了後にデータを送り返す、という処理ができるようになるため、大幅な消費電力の改善が見込める。
同氏は、「ソフトウェアとハードウェアの古典的なシステムから、Deep Edge AIへと移行することで、計算能力、計算密度を数百倍から1000倍にし高効率化したいと考えている。だからこそ、エネルギー効率の面で、インメモリコンピューティングが必須であると強く信じている」と語っていた。
さらに、消費電力の大幅な削減を実現するための技術として、完全空乏型SOI(FD-SOI:Fully Depeleted Silicon-on-Insulator)技術と相変化メモリ(PCM)技術も紹介した。同氏は、「当初はスタンドアロンのメモリから始まったPCMだが、徐々にマイコンの組み込み不揮発性メモリへと移行している。現在、AI用に開発しているNPU搭載のデモボードは、28nm FD-SOI技術とPCM技術を採用している」と説明。「われわれは自動車、産業、個人向け電子機器の分野で急増するAIに対応するため、超低消費電力技術、ニューラルネットワークエンジン、そしてメモリコンピューティングという全てのソリューションをカバーするフルレンジの技術ロードマップを開発している」と語った。
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