レドックス・フロー熱電発電で発電密度を1桁向上:排熱源を冷やしながら発電する
東京工業大学の研究グループは、排熱源を冷却しながら発電を行う「レドックス・フロー熱電発電」で、従来に比べ発電密度を1桁以上高くすることに成功した。
作動液の溶媒にガンマ‐ブチロラクトン(GBL)を採用
東京工業大学工学院機械系の村上陽一准教授と博士後期課程学生の池田寛氏らによる研究グループは2021年10月、排熱源を冷却しながら発電を行う「レドックス・フロー熱電発電」で、従来に比べ発電密度を1桁以上高くすることに成功したと発表した。
村上氏らの研究グループは、100〜200℃の排熱面を冷却する技術として、「レドックス・フロー熱電発電」を創出した。この技術はパワー半導体や車載電池セルなどを冷やしながら発電することができる技術で、2017年に実験結果を報告した。2019年には、そのメカニズムを解明した上で、コンセプトの原理的可能性を証明してきた。ただ、実用化に向けては発電性能のさらなる向上などが求められていた。
これまでの研究成果により、発電量が低い要因として、作動液(酸化還元種溶液兼冷却液)の溶媒に用いるイオン液体の粘度が高いため、溶質である酸化還元種の運動性を低下させていることが分かっていた。
そこで今回は、発電量を高めることができる液体を探した。その条件とは、「水と同程度に粘度が低いこと」「沸点が200℃以上と高いこと」「酸化還元種の溶解度が高いこと」「高い化学的・熱的安定性をもつこと」「量産効果により低コストで、十分な使用実績があること」および、「毒物劇物取締法に該当していないこと」である。
これらの条件を全て満たす液体が、「ガンマ‐ブチロラクトン(GBL)」であった。GBLを溶媒とする新たな作動液は、炎を3分間接触させても着火しないなど、高い熱安定性と安全性があることも確認した。
開発した作動液を試験セルに流動させ、170℃の排熱面を模擬した電極を用いて冷却実験を行ったところ、発電量は6mWで、発電密度は10W/m2に達したという。この発電性能は、従来の原理実証時に比べ1桁以上も高くなったことになる。ゲインも2桁向上したという。
実験では、発熱面が硬貨程度と小さいセルからの出力を市販の昇圧回路で昇圧し、LEDやモーターに印加した。この結果、緑色LED8個の連続同時点灯や3枚羽のファンモーターを回転させることに成功した。
研究グループは今後、早期実用化に向けて、「スケールアップの方法論の構築」「さらなる起電力の増大と溶解度の向上を含む、最適な酸化還元種と溶媒の探索」「最適な電極材質と流路形状の探索」などが必要と判断。発電密度100W/m2以上の達成に向け、共同研究などに取り組む計画である。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- スマホでAI処理を行うプロセッサアーキテクチャ
東京工業大学は、高度なAI処理をスマートフォンなどで実行できる「プロセッサアーキテクチャ」を開発した。試作したチップの実効効率は最大26.5TOPS/Wで、世界トップレベルだという。 - 量子センサーのスピン情報、電気的読み出しに成功
東京工業大学と産業技術総合研究所(産総研)の共同研究グループは、ダイヤモンド量子センサーのスピン情報を、電気的に読み出すことに成功した。感度が高い集積固体量子センサーの実現が期待される。 - ギャップ長20nmのナノギャップガスセンサーを開発
東京工業大学は、抵抗変化型ガスセンサーの電極間隔(ギャップ長)を20nmと狭くしたナノギャップガスセンサーを開発した。ギャップ長が12μmの一般的な酸素ガスセンサーに比べ、約300倍の応答速度を実現した。 - 東京工大、電源不要のミリ波帯5G無線機を開発
東京工業大学は、無線電力伝送で生成される電力で動作させることができる、「ミリ波帯5G中継無線機」を開発した。電源が不要となるため基地局の設置も容易となり、ミリ波帯5Gのサービスエリア拡大につながるとみられている。 - 基板に有機化合物を自在に塗布する技術を開発
東京工業大学は、水中で電気刺激を与え、色素などの有機化合物を自在にプラスチックやガラスといった基板上に塗布する技術を開発した。 - 新合成法でペロブスカイト型酸水素化物半導体開発
九州大学と東京工業大学、名古屋大学の研究グループは、長波長の可視光に応答するスズ含有ペロブスカイト型酸水素化物半導体を合成することに成功した。安価な鉛フリー光吸収材料を合成するための新たな手法として期待される。