産総研ら、金属と接着剤の剥離過程を実時間で観察:接着接合部の破壊メカニズム解明へ
産業技術総合研究所(産総研)と科学技術振興機構(JST)は、透過型電子顕微鏡(TEM)を用い、金属から接着剤が引き剥がされる過程を、ナノメートルレベルの精度でリアルタイムに直接観察した。
自動車の車体軽量化にも貢献
産業技術総合研究所(産総研)ナノ材料研究部門接着界面研究グループの堀内伸上級主任研究員と科学技術振興機構(JST)は2021年11月、透過型電子顕微鏡(TEM)を用い、金属から接着剤が引き剥がされる過程を、ナノメートルレベルの精度でリアルタイムに直接観察したと発表した。接着接合部の破壊メカニズムが解明されることによって、接合部の耐久性向上につながる接着剤の開発や被着体表面処理の最適化が進むとみられる。
自動車などの輸送機器は、燃費の改善に向けて車体の軽量化などに取り組んでいる。ここで有効とみられている方法の1つが、異種材料を適切に組み合わせて構造体を設計する「マルチマテリアル構造設計」と、それを可能にする異種材料同士の「接着接合技術」である。ただ、接着接合部の信頼性を一層高めていくには、接着破壊のメカニズムを詳細に解明する必要があった。
アルミニウム合金とエポキシ系接着剤の接着接合部における破壊過程としてこれまでは、接着面上を亀裂が進むことで、接着剤が剥離するとみられていた。また、破壊の過程をリアルタイムに観察する時は、光学顕微鏡や走査型電子顕微鏡(SEM)を用いていたが、この方法だと1μm以下の微細な変形を観察するのは難しかったという。
そこで今回、より高倍率で観測できるTEMを用いることで、接着接合部が破壊する過程をリアルタイムで観察することに成功した。観察を行うため今回は、アルミニウム合金の接着接合試料から、約100nmの薄片試料を切り出し、試料ホルダーに固定した。このホルダーは、試料の両端を引っ張るための機構を備えている。実験では、試料両端を引っ張りながら、接着部が破壊される過程をナノメートルレベルの精度でリアルタイムに観察した。
この結果、接着接合試料に力を加えて引き剥がそうとすると、まず接着剤に小さなひずみが発生することが分かった。このひずみが微小な亀裂となり、接合面に極めて小さい空洞が発生した。微小な亀裂がアルミニウム合金との接合部に達すると、接合面に沿って亀裂が進み、極めて小さい空洞と一体化。これによって接着部は破壊に至ることが明らかとなった。
この時、破壊後のアルミニウム合金側には、接着剤がわずかに残っていることを確認した。アルミニウム合金表面のわずかな凹凸が、破壊挙動に関与したため、被着体表面の所々に接着剤が残ったと分析している。
研究グループは今後、接着接合部における破壊現象の観察結果をシミュレーションで再現し、複雑な接着破壊現象のメカニズムについて、その解明をさらに進めていく予定である。
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