電気自動車への移行を後押しするSiC技術:EV向けの開発、生産が拡大
Wolfspeed(旧Cree)は2021年10月、同社の社名変更と同時に、大規模なデザインウィンを獲得したことを発表した。同社は、電気自動車(EV)向けSiC(炭化ケイ素)半導体の開発および生産に関して、GM(General Motors)とサプライチェーン契約を結んだ。2021年8月には、STMicroelectronics(ST)との複数年契約を拡大し、150mmのベアおよびエピタキシャルSiCウエハーの供給に関する8億米ドルの契約を結んでいる。
Wolfspeed(旧Cree)は2021年10月、同社の社名変更と同時に、大規模なデザインウィンを獲得したことを発表した。同社は、電気自動車(EV)向けSiC(炭化ケイ素)半導体の開発および生産に関して、GM(General Motors)とサプライチェーン契約を結んだ。2021年8月には、STMicroelectronics(ST)との複数年契約を拡大し、150mmのベアおよびエピタキシャルSiCウエハーの供給に関する8億米ドルの契約を結んでいる。
「次世代のパワー半導体をけん引するのはSiC技術」
どちらの契約も、将来的に自動車業界が完全な電気自動車に移行すれば、SiC技術が重要な役割を果たすことをはっきりと示している。フランスの市場調査会社Yole Développementでパワー&ワイヤレス部門のディレクターを務めるClaire Trodec氏によると、SiCベースのパワー半導体は、EVユニットあたりのバッテリーコストを最大750米ドル削減できるという。
Creeは過去にLED事業を売却しているが、Wolfspeed部門の名称を採用した現在は、SiCパワー半導体に賭けている。同社のCEO(最高経営責任者)を務めるGregg Lowe氏は、「これが当社の形だ」と述べ、「次世代のパワー半導体をけん引するのはSiC技術だ」と断言した。
米国ノースカロライナ州ダーラムに拠点を置くWolfspeedは、2022年初頭からニューヨーク州マーシーの200mmウエハー工場でSiCパワー半導体を生産する計画だという。このMohawk Valley工場は、同社が10億米ドルを投じた世界最大のSiC生産ラインである。
現在、世界的な半導体不足が大きく報じられているが、Wolfspeedは数年前からSiCの生産能力を拡張している。
STも、ICサプライチェーンの混乱を予想しており、今回の半導体不足が起こる前に、需給ギャップを埋めるためSiCウエハーの長期契約を結んでいる。STは、WolfspeedとのSiCウエハー供給契約のほかに、ローム傘下のウエハーメーカーであるドイツSiCrystalとも同様の契約を結んでいる。さらに2019年には、スウェーデンのSiCウエハーメーカーであるNorstelを買収し、200mmウエハーの研究開発を開始している。
一方、他のSiC企業も、EV設計におけるSiCデバイスの将来的な需要を見越して、ウエハー供給契約を進めている。例えばドイツInfineon Technologies(以下、Infineon)は、2017年にCreeのWolfspeed事業の買収に失敗した後、CreeとSiCウエハーの供給に関する複数年契約を結んだ。同社は、日本のウエハーメーカーである昭和電工とも、SiC材料とエピタキシー技術に関する契約を結んでいる。
Infineonは当時、「SiCパワー半導体市場は今後5年間で毎年40%成長する」と予測していた。実際に、SiCパワー半導体は400〜800V、さらにそれ以上のシステムに広く採用され、SiCを手掛ける主要企業の成長を後押しした。
EVの電源設計とSiC半導体は相性が良い
STと、2018年に発売された「Model 3」にSiCパワー半導体を先駆的に搭載したEVメーカー、Teslaの供給関係を考えてみよう。業界の報道によると、STは、Model 3のトラクションモーター向けのパワーモジュールに使用されるSiCのサプライヤーだった。System Plus Consultingの製品分解レポートによると、パワーモジュールにはSTのSiC-MOSFETが搭載されていたという。
2021年になり、半導体不足が自動車メーカーのサプライチェーンに深刻な影響を与える中、TeslaとのSiC供給契約は安定しているようだ。
つまり、EVの電源設計とSiCパワー半導体は相性が良いということだ。トラクションインバーター以外にも、OBC(オンボードチャージャー)やDC-DCコンバーターにSiCパワー半導体が使われている。例えばSTは、ルノー・日産・三菱自動車アライアンスや中国のEVメーカーBYDと提携し、OBCにSiCパワー半導体を供給している。
【翻訳:滝本麻貴、編集:EE Times Japan】
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 自動車や航空宇宙でも活路を見いだすGaN技術
オランダの半導体メーカーNexperiaが最近主催したイベントの複数の参加者によると、自動車、民生、航空宇宙用途では、電力転換などのアプリケーションにGaN(窒化ガリウム)技術の利点を活用しつつある。 - 富士電機、第2世代SiC-SBDシリーズを発売
富士電機は、データセンターや通信基地局用電源装置に向けた「SiC-SBD(炭化ケイ素−ショットキーバリアダイオード)シリーズ」を発売した。第2世代と呼ぶ新製品は、第1世代品に比べ通電時の電力損失(定常損失)を16%も削減している。 - 東芝、次世代パワー半導体向けドライバーICを開発
東芝は、次世代パワー半導体向けのゲートドライバーICを開発した。アナログとデジタル回路を1チップに集積しており、パワー半導体で発生するノイズを最大51%も低減することができるという。2025年の実用化を目指す。 - SiC-MOSFETの性能が6〜80倍に、トレンチ型に応用可能
京都大学 大学院 工学研究科の木本恒暢教授、立木馨大博士後期課程学生らのグループは2021年10月27日、SiC半導体の課題である界面の欠陥を大幅に削減し、SiC-MOSFETの性能を6〜80倍に向上することに成功したと発表した。 - ファブライト化を強調、300mm工場への移行を急ぐ
onsemi(オンセミ)の社長兼CEOであるHassane El-Khoury(ハッサーン・エルコーリー)氏は2021年9月、日本のメディアとの合同インタビューをオンラインで行った。 - オン抵抗6mΩ品など耐圧750VのSiC FETを発表
米国UnitedSiCは、耐圧750Vでオン抵抗が6mΩと小さいSiC(炭化ケイ素)FETを発表した。競合するSiC MOSFET製品に比べオン抵抗は半分以下で、短絡保証時間定格は5マイクロ秒を実現している。