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半導体業界のサプライチェーン問題に迫る「第2波」混乱を生き残る企業になるためには(2/2 ページ)

パンデミックによって、サプライチェーンの混乱がニュースで大きく取り上げられているが、問題は荷降ろしのための入港を待つ船だけに起こっているのではない。供給不足は、密接に関連した半導体と自動車分野など、さまざまな分野で、製品が出荷されるずっと前から始まっている。

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「タイミングも最悪だった」大きな影響を受けた自動車業界

 米国自動車研究センター(Center for Automotive Research)のリサーチディレクターであり、Automotive Communities Partnershipのディレクターも兼任するBernard Swiecki氏は、SEMICON West 2021の講演で、「自動車業界は半導体不足により、他の業界と比べて約2倍も大きい影響を受けた上、そのタイミングもこれ以上ないほど悪かった」と述べた。


米国自動車研究センター(Center for Automotive Research)のリサーチディレクターでAutomotive Communities Partnershipのディレクターも兼任するBernard Swiecki氏

 「パンデミック以前は、通常ディーラーが自動車を販売するまでに要する日数は、約65日間だった。もし全ての製造メーカーが突然生産を停止した場合、在庫が底をつくのに約2カ月かかることになる。しかし、今回これほどまでに早く在庫が底をついてしまったのは、自動車メーカーが既に、パンデミックの影響を受ける前から、販売台数が急激に増加し始めていたからだ。これらの在庫がある程度通常レベルまで回復する前に、半導体不足が発生したのである」(Swiecki氏)

 Swiecki氏は、「自動車売上高は2021年4月末まで、非常に堅調に伸びていた。しかし、半導体不足が発生すると、自動車メーカーの売上高が低下し始める。その原因は、消費者からの需要が減少したためではなく、純粋に供給ベースで打撃を受けたためだ。現在まだ改善の兆しは見えない。これまで、新車の需要に対応する上で問題が生じたことがなかったため、業界にとっては新しい問題だといえる。業界では常に、誰でも購入できるようあらゆる種類の自動車を供給するのが当然とされてきた。従来のやり方を一変させる必要に迫られたのは今回が初めてだ」と語った。

サプライチェーンの適応なければ長期的な影響に

 Swiecki氏は、「半導体の供給は、連邦政府がこれらの自動車にインセンティブを与えることを推進するなど、新しい手法によって妨げられている。しかし、半導体を手に入れない限りそれは実現しない」と述べる。

 Swiecki氏は「2028年までに、米国で700万台の電気自動車が生産されると予測されており、これは半導体の大量需要を意味する。「自動車の開発サイクルは何年もかかるため、”2028年”は半導体にとっては明日かもしれない」と述べる。しかも、これは電気自動車(EV)市場だけの話だ。他に自動運転車のコンテンツもある。「われわれは自動運転車を作るために、この業界を変革している最中だ」(同氏)

 半導体不足は、サプライチェーンが適応し、追い付くことができなければ、長期的な影響を及ぼす可能性がある。「自動車は、その深いサプライチェーンのおかげで、米国経済の大きな部分を占めている」とSwiecki氏は付け加えた。

サプライチェーン危機の「第2波」

 RapidRatingsのGellert氏は、自身の基調講演で再びステージに上がり、より長期的な課題、つまり彼が『第2波』と呼ぶものについて語った。同社は、アルゴリズムを用いて企業の財務諸表を評価し、その企業の短期的/長期的なリスクを洞察する。「多くの場合、企業はサプライチェーンのリスクを管理している。彼らはサプライヤーを管理しているのだ」(同氏)

 Gellert氏は、SEMICON Westの参加者は皆、サプライチェーンの課題に取り組んでおり、一般的に、多くの産業にまたがる企業が半導体の上流と下流に位置することを指摘。同氏は、「サプライチェーンのどこにいるかにかかわらず、サプライチェーンに影響を与える力学は、両側のビジネスに影響を与える」と述べた。

 Gellert氏は、「サプライチェーン危機の第一波の中で注目すべきは、たとえワインボトルの不足であっても、それが主流のニュースであるということだ。このように可視性が高まることは、サプライチェーンとリスクマネジメントにとって素晴らしいことだ。社内の可視性が向上したことで、企業はより優れたサプライチェーンリスクプログラムを設計できるようになった」と述べている。その予算も増えているが、この1年半はまだ多くの”トリアージ消火”が行われているという。サプライチェーンの専門家の中には、新たな混乱に対して十分な備えをしている人もいれば、そうでない人もいる。

 同氏はさらに、「株主や役員もサプライチェーンについて話すようになった。つまり、企業がサプライチェーンをどのように管理しているのか、どのような成果を上げているのかが精査されているのだ」と述べた。この第一波からどれだけ学ぶことができるかが、財務面を含めた「第2波」への対応力を左右する一因となる。「注意しなければならないのは、多くの業界で経営的には悪化していても、短期的な流動性の観点からは維持、存続できている企業が多いということだ。そこに第2波の難しさがある」(同氏)

サプライチェーンパートナーとの透明性と連携が必要

 資金を調達できることはイノベーションの資金源になるが、それが事業中断による生き残りの必要性に置き換わったとき、全く異なるシナリオが生まれる。Gellert氏は「サプライチェーンの専門家が10年未満しかその職務に就いていない場合、多くは信用収縮サイクルを経験していないだろう。そうした専門家たちは、資金調達ができないサプライヤーのリスクを管理したことがないのだ」と説明する。

 サプライチェーン危機の第一波を迎えた今、半導体や自動車関連企業を含む企業が、現金から流動負債、短期/長期負債、収益性の低下、売上減少にどのように対処しているかを理解する必要がある。

 Gellert氏は、「全体として、半導体業界は、財務の健全性と今後3年間の中核的な健全性の評価が高いという点で、他の業界と比較してそれなりにうまくいっている」と述べた。過去18カ月でコアの健全性が低下した企業は、このセクターの3分の1にすぎない。資本へのアクセスは、特に民間企業にとって、第2波の課題となる可能性がある。

 Gellert氏は、「次の波に突入すると、3種類の企業が存在することになる。成功し、成長し続けている企業、完全に失敗する企業、そして、問題を抱えながらも生き残る企業だ。これこそが、リスクマネジメントの観点から第2波が本当に必要とするものだ」と語った。

 しかし、資本と信用へのアクセスは、多くの問題のうちの1つにすぎない。環境/社会・ガバナンス(ESG)基準、コンプライアンスリスク、伝統的な財務リスク、高品質な配送価格など、全てが絡み合っている。Gellert氏は、「企業の財務的健全性は、企業がこれら他の全ての分野に投資し、順守することができるかどうかの基礎となる。不況で財務状態が悪化している企業は、手を抜かざるを得ないのだ」と述べる。つまり、サプライチェーンパートナーとの透明性と連携が、第2波のリスク管理には欠かせないということだ。

 Gellert氏は、「第一波での希望の兆しは、何が起こるかを知ることで、それを管理できるということだ。サプライチェーンのリスクマネジメントは、かなり改善されてきている。パンデミックによって、企業内部でより良いサプライチェーンリスクを作ることに予算が集中した。サプライチェーンのリスク、生産性、能力をより高める時代が来るだろう。そして、それは大きな希望の兆しとなる」と語った。

【翻訳:滝本麻貴、田中留美、編集:EE Times Japan】

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