ハードランディングは何としても避けたい ――続・2022年半導体市況展望:大山聡の業界スコープ(49)(2/2 ページ)
今後の半導体市況について語るのは無謀かもしれないが、着目すべき点や留意事項などについて、整理しておくことはそれなりに意味があるだろう。ここでは、いくつか気になる記事やデータを参照しながら、コロナ禍における影響について考察してみたいと思う。
半導体の出荷は順調に伸びているのに「不足」
もう1つ気になっているのは、実際に半導体不足の影響を受けている分野の情報である。例えば自動車分野。調査会社IHS Markitによれば、2021年7〜12月期の世界生産台数を、2021年8月時点では3930万台と予測していた。だが、2021年10月には3450万台へと下方修正した。同調査会社では、「半導体不足の影響が予想より大きいことが主な要因である」と理由づけている。自動車以外でも、2021年10月下旬から11月にかけて行われた各社の中間決算発表において、業績が下振れた原因を「半導体不足」と説明する企業のなんと多かったことか。ついでに申し上げれば、私事で恐縮だが、拙宅の温水洗浄便座をそろそろ交換すべき、と業者に診断された。20年も使ってきたので経年劣化が避けられず、交換を希望したのだが、業者によれば「半導体不足のためにいつ入庫できるか分からない」とのこと。こんなところにまで半導体不足の影響が及んでいるのか、と思ったものである。
WSTSの数字を見る限り、足りないとされている半導体製品はどれも例外なく出荷金額も数量も伸びている。2021年秋の中間決算発表時に年間計画を上方修正した半導体メーカーも少なくない。つまり、半導体の出荷は順調に伸びているにもかかわらず、ユーザーの手元に十分に届いていない、電子機器の生産が予定通りにできていない、という実態が浮き彫りになっているのである。
この点については、前回記事で主張させていただいたので詳細は割愛するが、「半導体は出荷されたのに電子機器が生産できない」という不自然な状態は、ことし2022年のどこかのタイミングで終息するはずだ、と考えるべきだろう。コロナ禍でサプライチェーンに問題が発生していることは明らかだが、出荷された半導体がどこで滞留しているのか。何がクリアされれば電子機器を生産(および、出荷)できるのか。経済活動を正常化したい、と考えている関係者としては、問題解決のための対策を考えているはずである。
「足りない」ではなく「手元に届いてない」
半導体は「足りない」のではなく「ユーザーの手元に届いていない」という前提で今後の市況を見通せば、今のような活況が長く継続することは期待できない。需要が急速に増えているわけではないので、どこかで滞留している半導体の所在が明らかになれば、必然的に出荷には調整がかかるようになるだろう。前回記事で「2022年半ばに市況の潮目が変わるかも」と申し上げた通り、潮目の変化を避けることは困難だろう。筆者としては、コロナ禍の状態が長引いたとしても、経済活動を正常化しようとする関係者の努力がサプライチェーンの問題を1つずつ解決することで、半導体市場の成長率が徐々に軟化するのではないか、と予想している。
正直に申し上げれば、ハードランディングせずに移行してもらいたい、と願っている。少なくとも、大手メモリメーカーやファウンドリー各社による設備投資額は、あまり強気になってもらいたくないものだ。シリコンサイクルは決してなくならないのだから。
筆者プロフィール
大山 聡(おおやま さとる)グロスバーグ合同会社 代表
慶應義塾大学大学院にて管理工学を専攻し、工学修士号を取得。1985年に東京エレクトロン入社。セールスエンジニアを歴任し、1992年にデータクエスト(現ガートナー)に入社、半導体産業分析部でシニア・インダストリ・アナリストを歴任。
1996年にBZW証券(現バークレイズ証券)に入社、証券アナリストとして日立製作所、東芝、三菱電機、NEC、富士通、ニコン、アドバンテスト、東京エレクトロン、ソニー、パナソニック、シャープ、三洋電機などの調査・分析を担当。1997年にABNアムロ証券に入社、2001年にはリーマンブラザーズ証券に入社、やはり証券アナリストとして上述企業の調査・分析を継続。1999年、2000年には産業エレクトロニクス部門の日経アナリストランキング4位にランクされた。2004年に富士通に入社、電子デバイス部門・経営戦略室・主席部長として、半導体部門の分社化などに関与した。
2010年にアイサプライ(現Omdia)に入社、半導体および二次電池の調査・分析を担当した。
2017年に調査およびコンサルティングを主務とするグロスバーグ合同会社を設立、現在に至る。
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