光ファイバー敷設に必須のOTDR向け超高感度APD:京セミが新規開発
京都セミコンダクターは2022年1月19日、光通信用測定器であるOTDR(Optical Time Domain Reflectometer)向けにアバランシェフォトダイオード(APD)「KPDEA003-T」を発表した。
京都セミコンダクターは2022年1月19日、光通信用測定器であるOTDR(Optical Time Domain Reflectometer)向けにアバランシェフォトダイオード(APD)「KPDEA003-T」を発表した。高感度、低ノイズを特長とする。SC光コネクター付きのシングルモードファイバーが同軸上に一体化されたモジュールのため、SC光コネクターを使用している光学機器と容易に接続できる。
KPDEA003-Tでは、同社の従来品「KPDEA005-56F」に比べて2倍の倍増設定が可能で、暗電流は約5分の1と、低ノイズも実現した。
OTDRは、光ファイバーの敷設に欠かせない測定機器だ。同社執行役員兼営業マーケティング本部 本部長である木下正明氏は、「デジタルトランスフォーメーションや5G(第5世代移動通信)の普及に伴い、通信インフラである光ファイバーの敷設が加速している。そのため、光ファイバーの接続状態や折れ異常、故障などの検知に用いるOTDRの需要が世界的に加速している」と述べる。フォトダイオードは光を測定するデバイスとして用いられ、特に極めて微弱な光を測定するOTDRでは、APDが用いられている。このようなAPDには、特に高い電流倍増率と低い暗電流が求められる。
KPDEA003-Tの暗電流は2nA、倍増率は58(λ=1310nmにおいて)である。上図でオレンジ色の枠で示された市場要求特性を満たしていることが見て取れる。
京都セミコンダクターで開発本部 開発2グループ グループマネージャーを務める太田篤伸氏は、これらを実現できた理由として、素子構造とパッケージ構造の最適化を挙げる。具体的には、
- InP(インジウムリン)基板上に、光吸収層、倍増層、電極(アノード)を形成したこと
- 感度や暗電流、倍増率を考慮し、各層の厚みと電界分布を最適化した
- チップの受光感度が最大になるよう、光学設計を最適化したボールレンズCANパッケージ構造
の3つを挙げた。
OTDRの他、光通信や光アンプ、医療や分析機器、光ファイバーセンシングなどの用途にも向ける。KPDEA003-Tの量産は、2022年9月30日から恵庭事業所(北海道恵庭市)で開始する予定だ。
木下氏は「2023年度までに、OTDR世界市場でシェア50%を獲得することを目指す」と述べる。「OTDR向けAPDを手掛けていた大手メーカーが撤退したこともあり、高性能のAPDに対する強い要求をいただいている。KPDEA003-Tは、こうした要求に応え、市場が待ち望んだ製品となっている」(同氏)
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