耐酸化性向上、銅・ニッケル系コアシェル型インク:プリンテッドエレクトロニクス向け
物質・材料研究機構(NIMS)は、プリンテッドエレクトロニクス向けに、耐酸化性を大幅に向上させた「銅・ニッケル系コアシェル型インク」を開発した。銅・ニッケル印刷配線の抵抗率は最大19μΩcmである。
インクに微粒銅紛を添加し、膜厚が大きい印刷も可能に
物質・材料研究機構(NIMS)は2022年2月、プリンテッドエレクトロニクス向けに、耐酸化性を大幅に向上させた「銅・ニッケル系コアシェル型インク」を開発したと発表した。銅・ニッケル印刷配線の抵抗率は最大19μΩcmである。開発したインクに微粒銅紛を添加した製品を住友金属鉱山および、プリウェイズと共同開発しており、近日中にサンプル品の供給を始める予定。
プリンテッドエレクトロニクスは、金属や半導体のインクを用い、印刷により電子回路を形成する技術。ウェアラブルデバイスやセンサーなどへの応用が期待されている。現在は主に銀ナノ粒子インクを用いているが、材料コストやはんだ耐性、信頼性などで課題もあるという。代替品として、銅ナノ粒子インクが注目されている。ところが、酸化に極めて弱いことが指摘されてきた。
研究チームは今回、有機アミンが金属イオンに結合(配位)した、大気下で安定な金属錯体を使ったインクに着目。異なる金属の錯体を混合すれば、インクの組成や条件によって多層コアシェル構造から合金まで印刷することが可能であることを発見した。
この原理を用いて、銅とニッケル錯体を混合したインクを基板に印刷して、自己組織化的に銅・ニッケルコアシェル構造を形成した。酸化に強いニッケルで銅表面を覆うことにより、従来の銅インクに比べ、耐酸化性を大幅に改善した。銅・ニッケル印刷配線の抵抗率も従来の金属インクとそん色ない値だという。
研究チームは、銅・ニッケルインクで印刷した配線を、走査型電子顕微鏡(SEM)によって元素マッピングした。これにより、銅粒子の周辺をニッケルが覆っているコアシェル構造を確認した。
また、透過電子顕微鏡(HRTEM)像から、銅とニッケルはそれぞれ結晶性を有し、きれいな界面によって接合されていることも分かった。さらに、銅・ニッケルインクは、フレキシブル基板に対する密着性に優れており、はんだへの高い耐性を確認したという。
開発したインクに微粒銅紛を添加すれば、膜厚の大きい印刷が可能になるという。これを実現するため、研究チームは現在、住友金属鉱山やプリウェイズと共同で、商用化に向けた開発を行っている。
今回の研究成果は、NIMS機能性材料研究拠点の三成剛生グループリーダー、李万里ポスドク研究員(現江南大学准教授)、川上亘作グループリーダー、国際ナノアーキテクトニクス研究拠点の中山知信副拠点長、李玲穎JSPS特別研究員らによるものである。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- チャネル長が2.8nmのCNTトランジスタを開発
物質・材料研究機構(NIMS)を中心とした国際共同研究チームは、チャネル長がわずか2.8nmのカーボンナノチューブ(CNT)トランジスタを開発し、室温で量子輸送が可能であることを実証した。 - NIMSら、500Wh/kg級のリチウム空気電池を開発
物質・材料研究機構(NIMS)は、重量エネルギー密度が500Wh/kg級のリチウム空気電池をソフトバンクと共同開発し、室温での充放電反応を実現した。開発したリチウム空気電池は、「エネルギー密度」と「サイクル数」が世界最高レベルだという。 - AI技術を活用、材料開発を少ない実験回数で実現
物質・材料研究機構(NIMS)と旭化成、三菱ケミカル、三井化学および、住友化学は、強度や脆さといった材料物性を機械学習で予測する時に、少ない実験回数で高い予測精度を実現できるAI(人工知能)技術を開発した。材料の構造から得られる情報を有効に活用することで可能にした。 - ポリマー半導体の電荷移動度が20倍以上に向上
広島大学や京都大学らによる共同研究チームは、ポリマー半導体の化学構造をわずかに組み替えるだけで、電荷移動度をこれまでより20倍以上も向上させることに成功した。 - ハロゲン混合型ペロブスカイトの構造変化を観測
神戸大学や物質・材料研究機構(NIMS)らの研究チームは、ハロゲン混合型ペロブスカイトに光を照射すると、結晶構造が局所的にひずみ、これによって発光波長が大きく変化することを突き止めた。サブÅレベルのわずかな構造変化は、結晶表面の格子欠陥を高分子材料で被覆し、不活性化すれば抑制できることも分かった。 - 動作電圧1Vの高性能TFT素子を印刷のみで作製
物質・材料研究機構(NIMS)は、低温焼結塗布型シリカ(LCSS)をゲート絶縁層に用い、全ての層を印刷プロセスで製造したTFT素子を開発した。このTFT素子は、1V以下の動作電圧で、移動度は世界最高レベルを達成した。