半導体輸出規制がロシアに与える強力な打撃:中国企業によるカバーも困難か(2/2 ページ)
米国が半導体などエレクトロニクス技術のロシアに対する販売を禁止したことは、既に品薄状態が続いていた世界各地のサプライチェーンに影響をもたらすと、複数のアナリストが分析している。
ロシアに痛手となる海外ファウンドリーの制裁参加
米国はつい最近も5Gインフラや軍用/諜報関連アプリケーションなどを対象にした禁止措置を講じたが、Marie氏は、「ロシアにはそうした措置によって痛手を受けるであろう特定の重要な領域がある」と述べる。ロシアは、ミサイルや衛星、通信ネットワーク用の半導体を必要としている。
ロシアはこれまで、半導体をTSMCなどの海外ファウンドリーに依存してきた。
地政学的情報コンサルタント企業Stratforのアナリスト、Matthew Bey氏によると、TSMCやSamsung Electronicsをはじめとする半導体企業は、規制や輸出管理制限を効果的に実施する上で極めて重要であるという。ロシアはアジアのグレーマーケットで半導体を調達することもできるが、そこで流通している部品はロシアが必要とするアプリケーションのために設計されたものではないという。Bey氏は、「たとえロシアが中国のファウンドリーに最新型ではない半導体を製造してもらえたとしても、テープアウトまで数カ月かかるはずだ」と指摘した。
Bey氏は、「米国はロシアに対する技術販売の広範な禁止措置を、わずか数週間で首尾よく実施した」と評価した。
また、同氏は、「米国の輸出管理法は堅固かつ治外法権的な性質を持つ。TSMCが米国で開発された半導体製造関連の装置やツールに依存していることを踏まえると、同社が米国の輸出管理法に逆らう余裕はない」とも述べた。
最終需要への打撃などの悪影響も
前述のファンドマネジャーによれば、価格インフレおよび、エレクトロニクスメーカーが高い在庫水準の維持を必要していることから、米国による禁止措置は半導体業界にとって現時点ではプラスに働いている。部品在庫の維持の動きは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)感染拡大に関連したサプライチェーンの混乱と、新たなアプリケーションの台頭によって大きく後押しされていたという。
Bey氏は「だが、ある時点で、そうした非効率性は最終需要に害を及ぼす。これは世界中の中低所得層にとって良いニュースではない。経済的苦悩によって、世界各地で政治の不安定性も生み出されるだろう」と述べた。
IDCのアソシエイトリサーチディレクターであるAndrea Siviero氏は、「進化しつつある地政学的なシナリオは、今後数カ月または数年で世界のICT需要に影響をもたらすだろう」と指摘した。IDCが最近行った調査では、回答した企業の半数以上が2022年の技術支出を見直していることが明らかになった。また、そのうち10%の企業が自社のICT投資計画を大幅に調整する予定だという。
Maire氏は、「米国による禁止措置は、1年あるいはそれ以上にわたりロシアに影響をもたらす可能性がある。その間にロシアは供給された部品を使い尽くしてしまうだろう。また、そうした影響は今後増大していくことが見込まれる。ロシア軍がウクライナでミサイルやシステムを使い果たしても、代替品を探せない、あるいは半導体不足のせいで代替品を製造する能力を見つけられないといった事態が想定されるからだ」と述べている。
【翻訳:青山麻由子、編集:EE Times Japan】
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