パッケージや霧など“透視”するテラヘルツ撮像チップ:テキサス大ダラス校などが開発
米テキサス大学ダラス校(UT Dallas)と米オクラホマ州立大学の研究チームは、パッケージやその他の障害物(霧や雪、ちり、煙、火など)を“透視”できる、テラヘルツ(THz)イメージャーマイクロチップを開発した。産業用途などに向ける。
米テキサス大学ダラス校(UT Dallas)と米オクラホマ州立大学の研究チームは、パッケージやその他の障害物(霧や雪、ちり、煙、火など)を“透視”できる、テラヘルツ(THz)イメージャーマイクロチップを開発した。産業用途などに向ける。
THzイメージングは、THz波を使用して不透明な対象物を評価する非破壊評価技術に分類され、材料分析や品質管理、セキュリティ検査などに有用であることが証明されている。また、航空宇宙や自動車、生物医学、工業、セキュリティなどの産業分野で、数多くの用途が確認されている。THzイメージングを使用すれば、多層構造の対象物の物理構造を調べたり、構造上の欠陥や異常を特定したりすることができる。
THzイメージャーマイクロチップを用いたモジュールでの実験の様子。霧が濃い環境でも対象物の画像を作成することができている。右下のピクセル画像は、霧の中から検出された輪郭と形状を示している[クリックで拡大] 出所:UT Dallas
THzイメージャーは、UT Dallasの電気およびコンピュータ工学の教授であるKenneth K. O博士と学生、研究者、共同研究者のチームによる15年以上にわたる研究の成果だ。THzイメージャーには、マイクロチップとリフレクターが搭載されている。リフレクターによって、撮影距離と画質を向上させ、消費電力を100分の1以下に削減することができる。マイクロチップは、障害物を通過する放射ビームを発する。ビームは対象物から跳ね返ってマイクロチップに戻り、その信号から画像が生成される。UT Dallasの通信マネジャーであるKim Horner氏は、「放射ビームはTHz帯(430GHz)の電磁スペクトルにあり、砂粒以下の画素から放射される」と説明している。
O博士は、「例えば、2.4GHzや5.8GHzの代わりに430GHzの信号を使用すると、より小さな対象物間の間隔を識別できる。THzイメージャーを使用して同じようなサイズの2つの対象物を識別する場合は、距離が重要になる」と述べている。
「識別できるサイズは、対象物がイメージングモジュールからどれだけ離れているかによって決まる。3mの場合、約3cmの対象物を識別できる。10mの場合は、離れて配置された約10cmの対象物を識別できる」(O博士)
低コストで製造可能
マイクロチップは繊細に見えるが、同チームの研究によると、このタイプの回路は、低コストのQFNパッケージで製造できるという。
O博士は、「パッケージングされたTHzイメージャーマイクロチップは、他の電子部品と同様、耐衝撃性が求められる商業用途に使用することができる。THzイメージャーマイクロチップは、温度が上がると性能が低下することが予想される。温度による影響と冷却の維持は、今後の研究対象だ」と述べている。
O博士と彼のチームは、THzイメージャーの設計に、CMOS集積回路技術を使用した。民生用電子機器の製造で一般的なCMOSを使うことでイメージャーをより安価に提供することができるという。
THzイメージャーのもう1つの利点は、フットプリントが小さいことだ。マサチューセッツ工科大学の研究者は、2.4GHzと5.8GHzのWi-Fi信号を用いて、壁を含む障害物を“透視”する同様の技術を開発したが、波長はUT Dallasのシステムの100倍だった。つまり、同じ解像度を望むなら、UT Dallasのシステムの方が100倍小さく、同じ画質が得られるということだ。
現在、UT Dallasの研究チームは、20m先まで撮影できる産業用THzイメージング装置を開発中だ。O博士は、「この技術は吹雪の中で運転する運転手や煙や火と戦う消防士など、視界の悪さを改善したい他のアプリケーションや用途にも適用できる」と述べている。
THzイメージングの医療用途は、皮膚がん、乳がん、大腸がんの早期発見/治療を中心に拡大し続けているが、UT DallasのTHzイメージャーマイクロチップは、430GHzの信号が皮膚で吸収されてしまうため、現在のところ医療用途に適用されていない。ただし、O博士は、医療用途の有望な例として、脱水症の監視を挙げている。
【翻訳:滝本麻貴、編集:EE Times Japan】
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