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CHIPS法成立に向け米政府とチップメーカーが取り組み強化米政府は必要性を強調

米国政府と同国のチップメーカーは2022年4月4日(米国時間)の週、520億米ドル規模の刺激策から成る「CHIPS Act」を通過させるための取り組みをそれぞれ強化した。CHIPS Actは、現在そして将来の戦略的脆弱性を警告するものであり、現在、議会の承認を待っている状況にある。

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 米国政府と同国のチップメーカーは2022年4月4日(米国時間)の週、520億米ドル規模の刺激策から成る「CHIPS(Creating Helpful Incentives to Produce Semiconductors) Act」を通過させるための取り組みをそれぞれ強化した。CHIPS Actは、現在そして将来の戦略的脆弱性を警告するものであり、現在、議会の承認を待っている状況にある。

半導体不足は「米国の経済に歴史的なダメージをもたらす」

 米国商務省長官のGina Raimondo氏やホワイトハウスの職員らは、2022年4月6日(米国時間)、議会の議員達に対してブリーフィングを行い、米国内で半導体を製造しないことによる経済面や国家安全面の脆弱性について説明した。米商務省(DOC)によると、最先端チップを含め、世界の半導体の70%以上がアジアで製造されており、米国産の半導体は12%にすぎないという。

 米国政府の動きとは別に、同日、米国の半導体メーカーIntel、Micron Technology、Analog DevicesはSemiconductor Allianceに加入した。また、米国内の半導体業界をより堅固なものにするため、半導体の研究開発(R&D)と試作を加速させることに合意したと発表した。

 ホワイトハウスは「米国への半導体供給の大規模な中断は、現行の半導体不足が米国の自動車産業にもたらしている影響よりもはるかに大きい形で、米国の経済に歴史的なダメージをもたらす可能性がある。さらに、世界各地の競合国に対する米国の技術競争力や軍事的優位が損なわれる可能性もある」と述べた。

 DOCの分析によると、2021年の半導体需要は2019年から17%上昇したが、供給については増加し続けることはできなかったという。供給不足によって、米国の2021年のGDP成長率から約1ポイント(2400億米ドル)が失われたそうだ。

 DOCによると、半導体不足により、2021年の自動車生産量は770万台減少したという。また、Deloitteによれば、世界各国の企業も2021年に5000億米ドル以上の損失を被った。特に自動車産業は2100億米ドルを失ったという。

 DOCは「半導体サプライチェーンの脆弱さは、事実上あらゆる経済領域に破壊的なリスクをもたらした」と述べた。

 DOCは「米国ならびにその同盟国やパートナーは、そうしたサプライチェーンの脆弱性を解消するため、重要かつ迅速なステップを取らなくてはならない。何よりもまず、議会は米国内の半導体製造を増やすため、CHIPS Actに対し余すところなく資金を提供する必要がある。とはいえ、CHIPS Actはパズルの1ピースにすぎない。不可欠なものではあるが、米国の長期的な技術リーダーシップにとっての十分条件ではない」と述べた。

エコシステムの「より脆弱な部分」強化の重要性

 国内産業を強化できるよう、米国の立法者らが520億米ドル規模のインセンティブパッケージの承認に向けて準備する一方、財政支援のほとんどが、それを必要としていないほど高い収益性を備えた半導体メーカーに投じられることに対する懸念もある。その一方で、エレクトロニクスのエコシステムのより脆弱な部分は、その間ずっと無視されることになる。


American Innovation for American Growth 出所:Semiconductor Alliance

 Semiconductor AllianceはMITRE Engenuityが率いる団体で、2021年に設立された。その原則は、「American Innovation for American Growth(対訳:米国の成長のための米国のイノベーション)」に関するホワイトペーパーの中で公開された。同団体は、「National Semiconductor Technology Center(NSTC)」の実現に向けて米国全体で行動するよう呼び掛けているが、このホワイトペーパーではそうした喚起についてもまとめられている。

 Intelの技術開発部門でゼネラルマネジャーを務めるAnn Kelleher氏は「米国の半導体業界は変曲点にある。米国にとって最大の課題の解決を促すイノベーションの礎を前進させるため、業界として団結して前に進む道を築かなくてはならない。これほどまで重要な時はかつて一度もなかった」と述べた。

 Micronによると、Semiconductor Allianceは米国の産業界や政府による研究開発(R&D)への現行または将来的な投資を活用する他、米国の業界リーダーシップの再構築に向けてCHIPS Actを支援するという。

 Micronのテクノロジーおよびプロダクト部門でエグゼクティブバイスプレジデントを務めるScott DeBoer氏は「われわれの業界の誕生の源である『協調の精神』によって、これまで数々のイノベーションが実現してきた。米国の半導体リーダーシップと長期的な国家競争力の未来にとって、協調の精神の重要性はかつてないほど高まっている」と述べた。

 DOCによると、米国の半導体業界が2021年以降に発表した投資額は800億米ドル近くに及ぶという。一方、中国は国内生産量を増やすため、10年間で1500億米ドルの投資を約束している。韓国と台湾も、半導体エコシステムにおける世界規模のリーダーシップを維持するため、多大な投資を行ってきた。また、EUや日本、インドも開発への投資を準備しているようだ。

 Mitre Engenuityを率いるLaurie Giandomenico氏は「中国との戦略的な競争の高まりに直面する中、米国は世代を超えて影響を与える機会を得ている。Intel、Micron、Analog Devices、Mitre Engenuityは、Semiconductor Allianceを通じて信頼と中立性に基づいた革新的なパートナーシップを構築することで、業界、政府、大学が協力し合えるようそれぞれの利益を調整する他、米国の土壌で半導体業界を成長させる」と述べた。

半導体の安定供給、「国家安全に不可欠」

 DOCによると、半導体の確実で安定した供給は、国家安全にとって不可欠だという。DOCは「高度な半導体は、最新式の武器システムを含め、国家安全に欠かせない数々の能力にとって不可欠である。そのような武器システムの一例にFGM-148 ジャベリンミサイルがあるが、米国はロシアによる侵攻に対抗できるよう、ウクライナにこのミサイルを提供している」と述べた。

 国防総省(DOD)は、産業基盤に関するレビューの中で「最先端のマイクロエレクトロニクスは、DODにとって、仮想敵国に対する非対称の技術優位性の主要な差別化要素である」とした。

 DODは、「DOD独自のマイクロエレクトロニクスに対する要求は、全体的な財政面では小さく、米国の総需要のわずか1〜2%にすぎない。しかし、これらのニーズは米国を防衛するDODの能力にとって最も重要な能力の多くを駆動するものだ」と述べている。

【翻訳:青山麻由子、編集:EE Times Japan】

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