東芝、インフラ点検向けの「AI技術」を開発:数枚の正常画像から異常箇所を検出
東芝は、数枚の正常画像と点検で得られた画像を用い、異常個所を高い精度で検出できるインフラ点検向けの「AI技術」を開発した。危険な場所にある鉄塔や橋などを点検する作業の省人化や、異常箇所の早期発見が可能となる。
発生頻度が低い未学習の異常も高い精度で検出
東芝は2022年5月、数枚の正常画像と点検で得られた画像を用い、異常個所を高い精度で検出できるインフラ点検向けの「AI技術」を開発したと発表した。危険な場所にある鉄塔や橋などを点検する作業の省人化や、異常箇所の早期発見が可能となる。
高度経済成長期に整備された国内の道路や橋、トンネルでは、老朽化が進んでいる。この中には、山岳地や高所など、点検の難易度が高い場所も少なくない。また、保全を担う点検員の高齢化や人手不足も大きな課題となっている。こうした中で注目されているのが、安全で効率的なインフラ保全作業を可能にするAI技術の導入である。
しかし、不特定な異常を高い精度で検出するには、学習に必要な大量のデータを収集することや、正常時の画像と正確に位置合わせをした点検画像などが必要になっていた。インフラ施設で発生する異常や変状には、「ひび」や「さび」だけでなく、「水漏れ」や「油漏れ」「落下物」「部品の脱落」など、さまざまな状態があるからだ。こうした課題を解決するのが難しくAI導入の妨げになっていたという。
そこで東芝は、数枚の正常画像と点検で得られた画像を用いて、異常箇所や異常を引き起こす可能性がある変状箇所を、高い精度で検出できるAI技術を開発した。ここでは、大量の画像で事前に学習した深層モデルの深層特徴量を比較に用いるという。
具体的な検出方法はこうだ。正常画像と点検で得られた画像の特徴量を導き出し、学習済みの深層特徴量の中から、類似したものを自動で選択する。それぞれの深層特徴量を比較してその差分を求め、異常(変状)部分を検出するための「異常スコアマップ」を計算する。ここでは、学習済みの深層モデルを用いるため、現場で多くの画像を収集して学習する必要はないという。
ただ、この方式では、見え方が異なる場合、正常な場所でも異常と判断する「過検出」が発生することもあり、目視による再検査が必要なこともあったという。
そこで東芝は、異常スコアマップを補正する独自技術を用いて、異常箇所の過検出を抑制する技術を開発した。太陽光パネル裏面の点検を模擬した実験などを行い、これらの有用性を確認した。公開データを用いた実験でも、東芝方式は91.7%の精度を達成した。学習が不要な従来の手法だとその精度は89.9%だったという。
開発したAI技術は、発生頻度が低い未学習の異常も、高い精度で検出することが可能となる。インフラ点検などに活用すれば、正常時の画像枚数が少なくても、さまざまな異常/変状箇所を高精度で検出することができる。過検出も抑えられるため、人手による再チェックなども軽減できる。東芝は、2023年度中の実用化を目指し、システムの開発や精度のさらなる向上を目指すことにしている。
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