小型で40TOPSのインメモリコンピューティングチップ:オランダ新興企業が開発
AI(人工知能)チップの新興企業であるオランダAxelera AI(以下、Axelera)は2022年5月、同社のインメモリコンピューティングチップである「Thetis Core」のテストおよび検証に成功したと発表した。
AI(人工知能)チップの新興企業であるオランダAxelera AI(以下、Axelera)は2022年5月、同社のインメモリコンピューティングチップである「Thetis Core」のテストおよび検証に成功したと発表した。9mm2以下のチップサイズにおいて14.1TOPS/Wの電力効率と39.3TOPSの性能を達成したという。
Thetis Coreは、わずか4カ月の設計/検証で注目を集め、2021年12月にテープアウトされた製品だ。ベルギーの研究機関imecの一部門として、ASICソリューションを手掛けるimec.IC-linkがサポートしたという。Thetis Coreは、2022年秋に発表予定の、Axeleraにとって初となる製品に搭載される予定だ。2023年初頭には、アーリーアクセスの顧客に提供することを目指している。
AxeleraのCEO(最高経営責任者)であるFabrizio Del Maffeo氏は、米国EE Timesのインタビューに応じ、「当社は、AIアクセラレーション(およびRISC-V設計)向けデジタル/アナログコンピューティングの両方を専業としているが、今回のテストチップは、Axeleraのデジタルインメモリコンピューティング設計に向けたPoC(Proof of Concept)である」と述べている。
同氏は「Axeleraは、数千TOPS/Wを達成可能なimecのアナログコンピューティング技術にもアクセスすることができる。ただし、アナログコンポーネントのわずかな変動が結果に影響を及ぼす可能性があるため、ネットワークを微調整する必要がある」と続けた。
同社のテスト結果によると、800MHz動作でAIコンピューティング性能が39.3TOPS、INT8精度で14.1TOPS/Wの効率を達成したという。クロック周波数によってスループットとエネルギー効率をトレードオフできるため、チップの最高動作周波数970MHzでは48.16TOPSの性能を達成する。ピーク時のエネルギー効率は、高度にスパース化されたアクティベーションをうまく利用することにより、同じテストチップで33TOPS/Wに達するという(動作周波数は異なる)
Thetis Coreは、コンピューティングコアが1つだが、最初の製品はマルチコア設計を採用する予定だという。同社は以前に、「最初の製品で数百TOPSの性能実現を目指す」としていたが、現在もまだ構想段階のようだ。
Del Maffeo氏は、「コア数を増やす必要はない。現在のエッジアプリケーション向けに達成可能なスループットや効率では、数個のコアで十分だ」と述べる。
さらに、「TOPSやTOPS/Wは素晴らしいが、それだけでは不十分だ。この市場で勝つためには、性能、ユーザビリティ、そして価格を実現しなければならない」と語った。
「エッジコンピューティングの場合、99.5%の顧客は“量子化”が何であるかを知らないし、気にもしていない。当社のチップで(顧客の)ニューラルネットワークの動作を高速化できるかどうかだけを知りたいのだ」(同氏)
Axeleraの従業員数は53人。同社はオランダの他、ベルギーとスイスにR&D(研究開発)拠点を置いている。
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
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