ダイヤモンド結晶中の磁化を極めて高速に検出:光磁気効果で新たな機能性を開拓
筑波大学や北陸先端科学技術大学院大学は、NV(窒素−空孔)センターを導入したダイヤモンド単結晶に超短光パルスを照射し、10兆分の1秒で瞬く結晶中の磁化を検出することに成功した。
NVありのダイヤモンドで、新たにsin 6θ成分が見つかる
筑波大学数理物質系の長谷宗明教授や北陸先端科学技術大学院大学ナノマテリアル・デバイス研究領域の安東秀准教授らによる研究グループは2022年6月、NV(窒素−空孔)センターを導入したダイヤモンド単結晶に超短光パルスを照射し、10兆分の1秒で瞬く結晶中の磁化を検出することに成功したと発表した。
磁気センサーは、磁石や電流が発する磁気の大きさと向きを検出することができ、生体中の微弱な磁気の検出や、電子デバイスの検査/検知などに応用されている。その種類も多く、比較的簡便な「トンネル磁気抵抗素子」を用いたものから、感度が極めて高い「超伝導量子干渉素子(SQUID)」を用いたものまで幅広い。ただ、磁場を測定する時間分解能は「マイクロ秒」にとどまっているのが現状で、より高い時間分解能で測定するための技術開発が求められているという。
そこで研究グループは、ダイヤモンドにおける非線形フォトニクスの新しい機能性を追求するため、光パルスで磁気を作り出す「光磁気効果」に着目した。実験ではまず、波長800nmの近赤外パルスレーザー光をλ/4波長板で円偏光に変換し、NVセンターを導入した高純度ダイヤモンド単結晶に、励起光として照射した。
そうしたところ、逆ファラデー効果により、ダイヤモンド中に磁化が発生することを確認した。磁化が発生している短い時間に直線偏光のプローブ光を照射すると、磁化の大きさに比例して、プローブ光の偏光ベクトルが回転(これを磁気光学カー回転と呼ぶ)する。この時間変化をポンプープローブ分光法で測定した。
実験結果により、逆ファラデー効果で生じるダイヤモンド中の磁化は、約100フェムト秒の応答として誘起されることが分かった。しかも、NVセンターを導入したダイヤモンドが、NVなしのそれと比べ、発生する磁化は増幅されることが明らかになった。
次に、励起レーザーの偏光状態を逐次変化(直線偏光から右回り円偏光→直線偏光→左回り円偏光)させて、波長板の角度とカー回転角(θ)の関係を調べた。NVなしの高純度ダイヤモンド単結晶では、逆ファラデー効果を示す「sin 2θ」成分と、非線形屈折率変化である光カー効果を示す「sin 4θ」成分が検出された。
一方、NVありのダイヤモンドは、これら2つの成分に加え、「sin 6θ」の成分が見つかった。さらに、励起光強度を変えながら各成分を解析した。この結果、sin 2θ成分とsin 4θ成分は、励起光強度に対して1乗で増加。これに対しsin 6θの成分は、励起光強度に対し2乗の大きさで変化することが分かった。
これらの測定データから、sin 6θの成分は、NVセンターが有するスピンが駆動力となり、ダイヤモンド結晶中に発生した非線形の磁化(逆コットン・ムートン効果)であることが分かった。この非線形の磁化による磁場検出感度は、約35mTと見積もることができ、時間分解能としては約100フェムト秒が得られたという。
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