グラフェンバイオセンサーを活用した「電子鼻」を開発へ:がんの検出を目指す(2/2 ページ)
グラフェンセンサーは、グラフェンの商用化に向けた最前線の取り組みとして位置付けられてきた。現在市場に投入されているグラフェンセンサーの数は、他のグラフェンデバイスを大きく上回っている。グラフェンセンサーの中でも、最も市場シェアが大きいのが、バイオセンサーだ。米Cardeaは、生体信号処理装置(BPU:Biosignal Processing Unit)を利用してがんを検出することが可能な、グラフェンバイオセンサーを開発した実績を持つメーカーである。
BPUプラットフォームの構成
BPUプラットフォームは、数々の主要コンポーネントで構成されており、主にマイクロプロセッサが生体信号を電気信号に変換している。BPUは、あらゆる種類の検出装置と同様にコンピューティングハードウェアを搭載し、感知器(sensing reader)やアナライザーを備えることによって、感知面からの出力を全て、ユーザーが検知/利用できる出力に変換する。プラットフォームの中で実際にセンシングを行う主要コンポーネントとしては、グラフェン層と捕捉分子の2つが挙げられる。
グラフェン層は、グラフェン電界効果トランジスタ(GFET)として利用され、異なる種類の生体信号を、直接デジタル情報に変換する。グラフェンは比表面積が大きく、電気伝導性や電荷キャリア移動度も非常に高いことから、さまざまな業界においてセンシングプラットフォームとして広く使われている。このためグラフェンは、生体分子などの結合に対し、敏感な電気的応答を示す。
グラフェン層の最上部には、さまざまな種類の捕捉分子が存在する。バイオセンシング基材と結合したGFETは最終的に、本質的な半導体性能を備えるグラフェンセンシングプラットフォームになる。このため、生体分子が表面に結合すると、グラフェンの電気特性が変化して、読み取り可能な出力として利用できる検出信号が生成される。数々の多彩な捕捉分子がGFET層の最上部に配置されて、特定のバイオマーカーと結合するため、1つのプラットフォーム上で、RNAやDNA、タンパク質ベースの生体分子などを検出することができる。こうしたことから、がん診断と疾患検出のいずれにも適用可能なシステムだといえる。
SoC上に多数のGFETを設置可能
グラフェンのサイズが小さい(薄さや横寸法などの観点から)ということは、シングルチップ上に多数のGFETを相互に隣接させて配置することができるため、センサーの対応距離や生体信号帯域幅を拡大可能であるということを意味する。グラフェンは、本質的に規模が小さい上、センシング効率も高いため、汎用性に優れた高感度検出プラットフォームを実現することができる。
Cardeaは、電気鼻を開発することを発表したばかりだが、これはがん検出プラットフォームの成功に基づいた取り組みである。同社は電子鼻の開発でも、がん診断装置の時と同様にグラフェンBPUプラットフォームを活用していく考えだ。
前述したように、小型でカスタマイズ可能なGFETを製造できるため、感染症向けにプラットフォームをカスタマイズするプロセスは比較的簡単であると考えられる。
Cardeaは既に数千台規模の生産能力を有していることから、BPU技術の量産は可能であることが示されている。ターゲットとなる市場は、発展途上国の感染症検出だ。他の診断プラットフォームに比べ、さまざまな感染症を検出できるので、開発期間とコストを低減することが可能だ。そのため、医療機器にそれほどコストをかけられない市場にとって魅力的な製品となるだろう。さらに、従来、医療検査に関して十分なサービスを受けられなかった地域にも門戸を開くことが可能だ。
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
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