Intelが撤退を公表、3D XPointはどんな遺産を残す?:PCMの未来は(3/3 ページ)
Intelはこれまで数年間にわたり、NAND型フラッシュメモリとDRAMとの間のストレージ/メモリ階層を実現する技術として、3D XPointメモリの「Optane」を推進してきた。しかし2022年7月、同年第2四半期の業績発表の中で、そのOptane技術の開発を断念することについて、ひっそりと言及した。
Optaneの可能性を見いだしたエコシステムベンダーたち
Optaneの普及をサポートするためのエコシステムには、ハードウェアとソフトウェアの両方が必要だった。
Intelは、ハードウェアに関しては、App DirectモードでOptane Persistent Memoryにネイティブアクセスすることを許可した。しかしそのためには、新しいAPIが必要なだけでなく、DRAM向けに書かれたアプリケーションも書き換えなければならなかった。そこで、memVergeなどのメーカーが、さまざまな種類のメモリ間で、階層化されたアルゴリズムを採用することによって、ハードウェアがメモリモードで実行する内容を複製するためのソフトウェアを開発するようになった。ソフトウェア定義された、DRAM互換性のあるインタフェースをアプリケーションに提供することにより、顧客企業がOptaneを利用するために自社のアプリケーションを書き換えなくても済むようにしたのだ。
一方、Intermolecularは、3D垂直構造メモリアレイに向けた成膜技術を開発したと発表した。これは、PVD(物理蒸着)の代わりに原子層堆積(ALD)カルコゲナイドを使用することによって、3D XPoint技術の第2バージョンを実現する可能性を秘めていた。それまでは、3D構造で数十層を積層することができなかったために、メモリ密度が制限され、コストが高くなるという問題があったが、同社のデバイスによってその問題を克服することが可能になった。OptaneのSSDおよびDIMM、両方のフォームファクターについて量産の可能性が見え始めると同時に、3D XPoint技術の低コスト化を実現する可能性が出てきたのだ。
IntermolecularのALDプロセスは、将来的に高密度化とコスト削減を実現した3D垂直統合を可能にし、3D XPoint市場の拡大に活路を開く可能性があった[クリックで拡大] 出所:Intermolecular
OptaneのアーリーアダプターであるLenovoは、サーバ/ストレージ機器の全体的なリフレッシュの一環として、DIMMフォームファクターにIntel Optaneを搭載した製品を、11種類発表している。一方Intel自身も、M.2 SSDで同社の144層のQLC(4ビット/セル)3D NANDフラッシュとOptaneを組み合わせ、Optaneでインスタント起動機能と応答性も実現することにより、ユーザーがファイルを迅速に検索して見つけ出したり、アプリケーションを素早く起動させることができるようにした。
Optaneは、QLC NAND SSDの前面に配置することで大量のデータ収集が可能になるため、QLCを用いる前に最適化され、ボトルネックを解消することができる。このためデータ配置の高効率化や、QLC SSDの寿命延長も実現することが可能になった。
ほんの数カ月前まで、Intelが明言していなくても、Optaneには未来が広がっているように見えたのだ。
フランスの調査会社Yole Groupが発表したレポート「Emerging Non-Volatile Memory Report 2022(新興不揮発性メモリレポート2022)」によると、新興メモリで構成されるわずかなパイの中でPCMが大きな割合を占めるようになったが、それはIntelのOptaneのおかげだという。なお、スタンドアロン型のメモリ市場では、全体の96.7%を占めるNANDフラッシュとDRAMが優勢を維持しているため、PCMやMRAM、ReRAMのシェアはわずか0.4%にとどまっている。
Yoleの予測では、3D XPointがけん引するPCM分野の成長ペースは遅い。3D XPointの商業化にはIntelだけが関わっており、同社のOptane製品の市場浸透率は、今後2年間は大きく進化しないと想定していた。
Optaneが終了した先にある、PCMの未来は
IntelがOptane事業を終了したことで、PCM市場は終焉を迎えたのだろうか。
Handy氏は、「IntelはOptaneへの取り組みにより、多くのPCMウエハーを加工してきたため、必ずしもそうではない」と述べる。しかし、疑問は残るという。「そこで得られた知識は(あるいはMicronのものであっても)日の目を見ることはなくなるか、それとも他に応用されることができるだろうか」(同氏)
DRAMとNANDの間のストレージ/メモリ階層には、取り組む価値のあるギャップがあるという考え方は今後も続くだろう。Handy氏は、「そこにまた、何か新しいものが生まれるかもしれない」と語っている。
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- Intel、SK hynixへのNAND事業売却の第1段階を完了
IntelとSK hynixは、SK hynixによるIntelのNANDおよびSSD事業買収の第1段階が完了したと発表した。これを受け、SK hynixはIntelに70億米ドルを支払う。 - 次世代メモリ市場、2031年までに440億米ドル規模へ
米国の半導体市場調査会社であるObjective AnalysisとCoughlin Associatesは、共同執筆した年次レポートの中で「次世代メモリが、さらなる急成長を遂げようとしている」という見解を示した。次世代メモリ市場は2031年までに、440億米ドル規模に達する見込みだという。 - メモリコントローラーの未来は、まだNANDに依存
メモリコントローラーの未来は、それらが制御するメモリと切っても切れない関係にある。同様に、メモリコントローラーもムーアの法則に支配されている。新しいアーキテクチャによってストレージクラスメモリ(SCM:Storage Class Memory)が勢力を拡大する可能性があるが、メモリコントローラー市場は依然としてNAND型フラッシュメモリに支配されている。 - 「Optane」導入加速を支えるエコシステム
現在、「3D XPoint」メモリの分野では、Intelの「Optane」だけが唯一の選択肢であるため、3D XPointの導入を加速し、エコシステムを構築していくには、プレイヤーたちにサポートを提供する必要がある。 - 赤字続きでもIntelが開発を止めない3D XPointメモリ
今回は3D XPointメモリ(Intelの製品ブランド名は「Optane」)の講演部分を説明する。 - Intel、SK hynixにNANDメモリ事業を90億ドルで売却へ
IntelとSK hynixは2020年10月20日、IntelのNAND型フラッシュメモリ事業をSK hynixに90億米ドルで売却することに合意したと発表した。