米国の新たな対中国半導体規制、効果に疑問の声:影響は西側諸国にも(4/4 ページ)
米商務省が、最先端の半導体製造技術の世界輸出に関する新たな規制措置を発表した。AlibabaやBaiduなどの中国半導体メーカーをターゲットにする。しかし、長年にわたり半導体業界に携わってきた観測筋は、「その効果はかなり誇張されており、少なくとも中国メーカーの成長を鈍化させる可能性は低いだろう」とみているようだ。
軍事用途に関する懸念の「誇張」
Triolo氏は、「こうした新技術の大部分は、スマートフォンやIoT(モノのインターネット)デバイスの他、AI(人工)アルゴリズム向けに最適化された半導体など、一般的な商業用途向けに適用される。このような技術を使用した半導体が軍事用途に使われる可能性があるとの見方で全般的に合意されているというが、それは過度な誇張ではないだろうか」と述べる。
また同氏は、「商務省が何をすべきかという決定は、明らかに現政権の権限で行われており、それは大規模な対中国戦略の一部となっている。しかし、目標という観点からは、まだ明確に定義されていない。業界において、技術関連規制の特定のアプローチとして好まれるのは、国家安全保障の正当性が明確に定義された、狭い範囲内の規制ではないだろうか」と付け加えた。
新しい規制措置は、世界で最も先進的な半導体メーカーに影響を及ぼす可能性がある。
「TSMCやSamsung、Intelはいずれ最先端ノードでGAAプロセスを導入するようになるだろう。中国のファブレスメーカーが、これらのファウンドリーを使って半導体を製造できる限り、中国は引き続き最先端の半導体開発を継続することが可能だ。こうした状況が発生しているのは、米国が他にもさまざまな輸出規制を実施し、3nm/2nmでの製造に必要な最先端のリソグラフィ装置に規制を課すことによって、中国国内ファウンドリーが最先端ノードを適用した製造を行えないようにしているからだ」(Triolo氏)
Copenhagen Business Schoolの准教授、Doug Fuller氏は、米国EE Timesの取材に対し、「今回の新しい規制措置は、中国のSMICが米国の半導体メーカーをも上回る7nmノードで半導体を製造しているとの報道を受けて、課されたものだ」と述べている。
「商務省は、幅広い規制に対する後方支援活動を続けてきた。SMICが7nmノードを適用したとの報道にうろたえ、商務省の取り組みはますます困難なものになっている」(Fuller氏)
過去の同盟が動き出す
米国は、冷戦時代にまでさかのぼる条約「ワッセナーアレンジメント(Wassenaar Arrangement)」に基づき、国際的パートナーとともに規制を実施する予定だという。
Triolo氏は、「新しい規制措置は、ワッセナーアレンジメントをベースとして調整されているため、多角的な性質を備える。この特定の規制による影響が及ぶ可能性がある企業は、EDAツールメーカーだ。CadenceやSynopsis、Mentorなどが、最も大きな影響を受けるだろう。しかし、規制内容の文言についてはまだ不明瞭な点がある。『最新版のEDAツールでは、GAA機能をソフトウェアパッケージ全体から切り離すことはできない』として業界は反発している」と述べる。
「GAA FETの設計機能を分離することが可能な方法で設計されているEDAツールは存在しない。このような規制措置が、実際にどの程度機能するのかは不明だ」(Triolo氏)
BISによると、米国は、ワッセナーアレンジメントで合意された品目以外にも、半導体製造のための装置やソフトウェア、技術など、さまざまな種類の技術を規制している。米国には、Applied MaterialsやLam Researchをはじめ、世界最大規模の半導体装置メーカーが存在する。
これらのメーカーは、売上高の大部分を中国に頼っている。例えば、Lam Researchは最新の四半期決算で、売上高の約31%を中国で占めていると発表している。
Triolo氏は、「Applied Materials、Lam、KLA、Cadence、Synopsis、Mentorといった米国を代表する企業の売上高を見てみると、中国からの売上高がどれだけあるか分かるだろう。輸出規制措置は、このような企業や技術ではなく、大量破壊兵器関連技術を対象として設計されているため、規制の導入は困難であることが判明している。グローバルで複雑なサプライチェーンが問題になることはない」と述べる。
この新しい規則の発効に際して、産業・安全保障担当商務次官のAlan Estevez氏は、「利益と同時にリスクも認識し、国際パートナーと協調して行動すれば、共通の安全保障目標が満たされ、イノベーションが支援され、世界中の企業が公平な競争の場で事業展開できるようになる」と述べている。
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
CHIPS法が米国にもたらす影響は、策定のキーパーソンが語る
米国の半導体製造の復活と技術サプライチェーンの強化を目指すCHIPS法(Creating Helpful Incentives to Produce Semiconductors for America Act)が米国下院で可決された。米国EE Timesは、トランプ政権で経済成長・エネルギー・環境担当国務次官を務めたKeith Krach氏へ独占インタビューを実施し、同法が米国にもたらす影響を聞いた。Krach氏は、Mike Pompeo前国務長官と並び、CHIPS法の策定に貢献したキーパーソンの一人である。2020年5月、TSMCが米国に120億米ドルの5nmプロセス工場を建設することに合意したのも、同氏の尽力によるものだ。Micronの2つの設備投資計画は、「理にかなっている」
米国の投資会社であるWedbush Securitiesでシニアバイスプレジデントを務めるMatthew Bryson氏は、米国EE Timesのインタビューの中で、「Micron Technology(以下、Micron)は、この先10年間の後半に米国内で400億米ドルの投資を行う一方、短期的には設備投資費を削減する計画を明らかにしているが、これは非常に理にかなっているといえる」と述べた。半導体業界は協業体制によるデータ共有を実現すべき
半導体業界にとって今、半導体不足から得られた教訓があるとすれば、それは、「半導体業界全体のパートナー/サプライヤー間において、もっと実用的なデータを共有する必要性がある」という点ではないだろうか。米下院、CHIPS法への資金提供とR&D強化を含む法案提出
米国の半導体製造の復活と技術サプライチェーンの強化を目指す取り組みは2022年1月24日(米国時間)の週、米国製半導体の「生産の急増」に向けた資金提供と幅広い技術の研究開発への投資を盛り込んだキャッチオール法案が提出されたことで、進展を見せた。Micron、CHIPS法成立で米国に400億ドル投資へ
2022年8月9日(米国時間)、世界第3位のメモリメーカーであるMicron Technology(以下、Micron)は、法案「CHIPS法(正式名称:CHIPS and Science Act)」の可決に伴い、400億米ドルを投じて米国での生産活動を拡張する計画を発表した。ASMLの新型EUV装置、ムーアの法則を今後10年延長可能に
ASMLが、新しいEUV(極端紫外線)リソグラフィ装置の開発計画を発表した。EUVリソグラフィツールは今や、世界最先端の半導体市場において非常に重要な存在となっている。その分野で唯一のサプライヤーであるASMLの経営幹部によると、今回の新型装置の開発により、ムーアの法則はこの先少なくとも10年間は延長される見込みだという。