ルチル型GeO2系で混晶半導体を開発、有用性も実証:注目の次世代パワー半導体材料
京都大学、立命館大学、東京都立産業技術研究センターによる研究チームは2022年9月9日、次世代パワー半導体材料として注目されているルチル型GeO2(r-GeO2)を中心とした、ルチル型酸化物半導体混晶系(GeO2-SnO2-SiO2)を新たに提案するとともに、実験と計算の両面から有用性を実証したと発表した。
京都大学、立命館大学、東京都立産業技術研究センターによる研究チームは2022年9月9日、次世代パワー半導体材料として注目されているルチル型GeO2(r-GeO2)を中心とした、ルチル型酸化物半導体混晶系(GeO2-SnO2-SiO2)を新たに提案するとともに、実験と計算の両面から有用性を実証したと発表した。
SiCやGaNより大きいバンドギャップ
r-GeO2は、4.7eVという大きなバンドギャップが特長だ。これは、SiCの3.3eV、GaNの3.4eVに比べて大きい。加えて、pn両型伝導の可能性ならびに高い電子/正孔移動度が理論的に予測されていること、バンドギャップが同等レベルの酸化ガリウム(ここではβ-Ga2O3)を超える熱伝導率を有すること、安価な手法でバルク結晶が合成可能であることから、次世代パワー半導体材料の一つとして注目を集めているという。2020年からはr-GeO2薄膜の成長も報告されていて、現在、パワーデバイス応用を目指した研究が加速している。
今回、研究チームが提案した混晶*)系(GeO2-SnO2-SiO2)は、ヘテロ接合デバイスなどパワーデバイスへの幅広い応用を見据えたものだ。
*)混晶とは、同じ結晶構造をもつ2種類以上の金属、半導体、絶縁体などが、ある比率で混合し、1つの結晶を作り上げたもの。組成比や元素の種類を変えることで、格子定数や、バンドギャップなどの電子構造を制御できるという。
研究チームは、まず実験的な手法として、ミストCVD(化学気相成長)法を用いて、r-GexSn1-xO2薄膜の合成と物性の解析を行った。その結果、組成の変化によって格子定数とバンドギャップの値を変調できることが明らかになった。加えて、薄膜内のGe組成「x」について、0≤x≤0.57におけるn型伝導性を実証した。
次に、理論的な手法として、第一原理計算を用いてr-GexSn1-xO2および、r-GexSi1-xO2混晶のバンドアラインメント解析を行った。r-GexSn1-xO2ではGe組成の増加によるバンドギャップの増大が、r-GexSi1-xO2混晶ではSi組成の増加によるバンドギャップの増大がそれぞれ予測されたとする。
さらに、各組成における伝導帯と価電子帯の挙動から、r-GeO2およびGe含有量の高い組成のr-GexSn1-xO2におけるp型ドーピングの可能性、また、r-SiO2ならびにSi含有量の高い組成のr-GexSi1-xO2の障壁層としての有用性が示唆された。
なお、研究チームは、京都大学大学院工学研究科の高根倫史博士課程学生、若松岳修士課程学生、田中勝久教授、立命館大学総合科学技術研究機構の金子健太郎教授(研究当時、京都大学大学院工学研究科講師)、東京都立産業技術研究センターの太田優一副主任研究員、立命館大学理工学部の荒木努教授で構成されている。
研究チームは今回の成果について、「GeO2薄膜の合成に続いて、混晶系作製の報告に至ったことをうれしく思う」(金子氏)、「超ワイドバンドギャップを持つ新たな酸化物半導体薄膜が合成できたことは大きな成果だと考えている。今後は電気特性の向上と実用化が期待される」(田中氏)、「本研究成果は新しいp型半導体の端緒を切り開くものだと期待している」(太田氏)などとコメントしている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 酸化ガリウムパワーデバイス、22年内にも量産へ
京都大学発のベンチャーで、酸化ガリウム(Ga2O3)パワーデバイスの開発を手掛けるFLOSFIAが、2022年内にもSBD(ショットキーバリアダイオード)の量産を開始する見込みだ。 - パワー半導体市場、2030年に5兆3587億円規模へ
富士経済は、パワー半導体の世界市場を調査した。電動車や再生可能エネルギーの普及などによって、需要拡大が期待されるパワー半導体市場は、2022年見込みの2兆3386億円に対し、2030年は5兆3587億円規模に拡大すると予測した。 - ノベルクリスタルテクノロジー、ロームから資金調達
ノベルクリスタルテクノロジーは、ロームを引受先とする第5回第三者割当増資を行った。今回の増資で得た資金と、ロームとのパートナーシップにより、β型酸化ガリウムエピウエハーの事業化を加速していく。 - 酸化ガリウム反転型DI-MOSFETの基本動作を確認
ノベルクリスタルテクノロジーは、しきい値電圧6.6Vで耐圧1kVの酸化ガリウム反転型ダブルインプランティドMOSトランジスタ(DI-MOSFET)を試作し、その基本動作を確認した。今後は特性の改善などに取り組み、2025年の実用化を目指す。 - パワエレ展示会「PCIM Europe 2022」レポート
「EE Times Japan」に掲載した主要な記事を、読みやすいPDF形式の電子ブックレットに再編集した「エンジニア電子ブックレット」。今回は、2022年5月10〜12日に開催された世界最大規模のパワエレ関連展示会「PCIM Europe 2022」の現地レポート記事をまとめた電子ブックレットを紹介します。 - ルネサス、甲府300mm工場で量産する車載用IGBT発表
ルネサス エレクトロニクスは2022年8月30日、電気自動車やハイブリッド車などxEV(電動車)向けのインバーター用パワー半導体として、新たな世代のプロセスを採用した絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(IGBT)を発表した。同社従来世代プロセスを採用したIGBT製品と比べ、電力損失を約10%改善するとともに、破壊耐量を維持しながら10%の小型化を実現した。