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燃料電池用の籠状窒素ドープグラフェン触媒を開発白金系触媒に迫る電圧特性を実現

筑波大学と九州大学、鶴岡工業高等専門学校の研究チームは、水素燃料電池(固体高分子型燃料電池)に向けた「籠状窒素ドープグラフェン触媒」を開発した。メタルフリー触媒として世界最高レベルの正極触媒活性を持ち、白金系触媒よりも高い耐久性を示すという。

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メタルフリー触媒として、世界最高レベルの正極触媒活性を実現

 筑波大学と九州大学、鶴岡工業高等専門学校の研究チームは2022年11月、水素燃料電池(固体高分子型燃料電池)に向けた「籠状窒素ドープグラフェン触媒」を開発したと発表した。メタルフリー触媒として世界最高レベルの正極触媒活性を持ち、白金系触媒よりも高い耐久性を示すという。高価で希少金属である白金を用いない触媒を採用すれば、水素燃料電池の材料コストを抑えることが可能になる。

 水素燃料電池は、水素と酸素からエネルギーを作り出せるため、カーボンニュートラルを実現するための重要な技術の一つになっている。ところが、実用化されている水素燃料電池の正極に用いられている白金系触媒は、高い性能を得られるが、材料コストを押し上げる要因にもなっていた。

 水素燃料電池を広く普及させるためには、白金を用いない安価な触媒開発が急務となっていた。そこで注目されているのが、安価な炭素材料をベースとし、耐久性にも優れた「窒素ドープカーボン触媒」である。ところが、燃料電池セル内の酸性環境下で、活性が著しく低下するという課題もあった。

 研究チームはこれまで、窒素ドープカーボン触媒について、酸性環境下で活性が低下するメカニズムを解明してきた。その要因として挙げたのが、「反応中に活性点が水和する」ことである。しかし、活性点近傍の疎水性を高めてしまうと、反応に必要となるプロトンが活性点へ供給されにくくなるという課題もあった。

 そこで研究チームは、プロトン伝導を担う微粒子を活性点近傍へ導入し、疎水性を損なうことなく、プロトン供給が可能な構造を開発し作製することにした。具体的には、窒素ドープグラフェンをベースに触媒調製を行った。その調製方法とは、酸化グラフェンとNaCl水溶液を混ぜ合わせた後に、水を蒸発させてNaClを結晶化し、その周囲を酸化グラフェンで覆った。この構造だと従来方法のように、グラフェン同士が積み重なることはないという。その後、アンモニア雰囲気で加熱して窒素ドープを行い、NaClを水溶させて取り除くことで、籠状の隙間を持った窒素ドープグラフェンを作製した。

 作製した籠状構造の窒素ドープグラフェンについて、酸素還元反応活性を測定した。この結果、酸性溶液中でもアルカリ性溶液中とほぼ同等で、白金系触媒に近い発電電圧を示すことが分かった。各種顕微鏡による観察結果から、籠状構造内には酸素が気体としてトラップされ、反応のメカニズムも変化していることを確認した。籠状構造にしたことでロータス効果が発現し、活性点近傍が疎水的となり、酸化還元反応の素過程が促進された結果だとみている。

 ところが、過電圧を印加すると電流値は白金系触媒と比べ大きく減衰。この要因として活性点へのプロトン供給が十分でないことが判明した。そこで、SiO2微粒子(ポリマーブラシシリカ粒子:PSiP)を籠状構造内へ導入し、プロトン供給の道を設けた。そうすると、過電圧印加時の電流特性も白金系触媒と似たような傾向を示すことが分かった。


左は籠状窒素ドープグラフェン(caged-NrGO+PSiP)の模式図、右は0.5MH2SO4水溶液中で測定した正極触媒活性(クリックで拡大) 出所:筑波大学他

 今回は、実験的な環境下で籠状窒素ドープグラフェンの正極触媒活性を確認した。今後は、燃料電池セルを用いて検証していくという。この時、窒素ドープグラフェン触媒に最適化された燃料電池セルの作製条件なども探し出していく。

 今回の研究成果は、筑波大学数理物質系の武安光太郎助教、九州大学カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所 三井化学カーボンニュートラル研究センターの中村潤児教授および、鶴岡工業高等専門学校の森永隆志教授らによるものである。

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