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リーマン・ショック級のメモリ不況の到来 〜その陰にIntelの不調アリ湯之上隆のナノフォーカス(56)(5/5 ページ)

半導体市場の不調が明らかになっている。本稿では、世界半導体市場統計(WSTS)のデータ分析を基に、今回の不況がリーマン・ショック級(もしくはそれを超えるレベル)であることと、その要因の一つとしてIntelの不調が挙げられることを論じる。

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メモリ不況の要因とは

 ここまで、特にMos Memoryの落ち込みがひどいこと、その主要なメモリのDRAMとNANDのどちらも、出荷額と出荷個数が急降下していること、さらに両メモリの価格も暴落しているであろうことを説明した(3D NANDのContract価格のデータが無いので不十分かもしれないが)。

 このように、コロナ特需が終焉し、ひどいメモリ不況に陥っているのはなぜだろうか? 世間では、PC、スマートフォン、デジタル家電やゲーム機などのコンシューマー製品の需要が急速に縮小したことが原因として挙げられている。

 しかし、筆者は、それ以外にも原因があると思っている。それは、PCとサーバ用MPUを主力ビジネスとしているIntelの不調である。どうも、2019年のメモリ不況と同じような現象が、今も起きているような気がしてならない。以下で、説明する。

陰に隠れているIntelの不調

 図17に、四半期ごとのMPU、DRAM、NANDの出荷個数を示す。Intelは、2016年に10nmのMPUの立ち上げに失敗した。そのため、14nmを延命することになった。もう1社あるMPUメーカーのAMDは、2018年からTSMCに生産委託し、TSMCの最先端プロセスでMPUを生産し始めた。これに対抗するために、Intelは、微細化は14nmのままで、プロセッサのコア数を増やすことによって高性能化しようとした。しかし、コア数の増大はチップサイズを大きくする。チップサイズが大きくなると、必然的に歩留まりが下がり、1枚のウエハーからとれるMPUが減少する。


図17:MPU、DRAM、NANDの出荷個数(2015年Q1〜2022年Q3) 出所:WSTSのデータを基に筆者作成

 その結果、世界のMPUの出荷個数は、2016年Q3の1.36億個をピークとし、上下動しながら減少していき、2019年Q1にはピーク時より4800万個少ない8800万個まで減ってしまった。これにより、世界的なMPU不足が起きた。特にデータセンタに使われるサーバ用MPU不足は深刻で、サーバ用につくられたDRAMとNANDが市場にあふれかえって価格暴落を引き起こした。

 これが2018年から2019年にかけて起きたメモリ不況の原因である。つまり、Intelが2016年以降、10nmのMPUの量産に失敗し続けたことが、メモリ不況を招いてしまったのである。

 それと同じことが、コロナ特需終焉後の今も起きているのではないか? 実際、2021年Q4に過去最高の1.4億個を出荷したMPUは、2022年Q3に1.04億個まで減少している。これが、PC需要の縮小によるものだけだろうか? 

 筆者は、今は顕在化していないが、その陰にIntelの不調があるのではないかとにらんでいる。というのは、今もクラウドメーカーはデータセンターを建設したいと思っており、それには大量の高性能サーバが必要で、そのためにはIntelの先端MPUが必要だからだ。それが十分供給できていないことが、今回のメモリ不況の一因になっているのではないだろうか?

Intelは10nmとIntel 7を量産できているのか?

 昨年2021年1月にIntelの8代目のCEOに就任したPat Gelsinger氏は、Intelの新しいロードマップを発表した(図18)。最近聞こえてくる話では、Intelが初めてEUVを量産適用するプロセスノード「Intel 4」によって生産するMPU(例えば「Meteor Lake」)は、当初の計画ではことし2022年後半に出荷する予定だったが、それは絶望的となり、2023年中の出荷も怪しくなっているらしい。恐らくIntelは、EUVを使いこなせていないのだと思う。


図18:Intelのプロセスノードの新しいロードマップ 出所:Ben Sell(Intel)、“Intel 4 CMOS Technology Featuring Advanced FinFET Transistors optimized for High Density and High Performance Computing”, 2022、VLSI Synposium, T01-1.

 そんなことよりも、「Intel 4」の前の「10nm」「10nm SuperFin」「Intel 7」は、ちゃんと量産できているのだろうか? これらは全て、基本的には、以前のIntelロードマップでいうところの「10nm」である。この3世代に渡る「10nm」の量産に問題が起きているとしたら、世界のMPUの出荷個数が減少していることとつじつまが合う。

 EUVを初めて適用する「Intel 4」の出荷が絶望的な状況で、かつ世界のMPUの出荷個数が激減していることを考えると、「10nm SuperFin」や「Intel 7」などの量産がうまく行っていない可能性は十分考えられることである。そしてこれが、今起きているメモリ不況の一要因になっているのではないか?

 今回のメモリ不況は、リーマン・ショック級かそれ以上にひどくなる可能性がある。その不況が軽微で済むためには、Intelに頑張ってもらうしかない。これは、もう一社のMPUメーカーのAMDではカバーできない規模である。そして、MPUが十分出荷されない場合は、メモリ価格はさらに暴落するだろう。DRAMやNANDのメモリメーカーにとって、事態はさらに悪化するかもしれない。

 「ガンバレ、Intel」と言うしかない。

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(次回に続く)

⇒連載「湯之上隆のナノフォーカス」記事一覧


筆者プロフィール

湯之上隆(ゆのがみ たかし)微細加工研究所 所長

1961年生まれ。静岡県出身。京都大学大学院(原子核工学専攻)を修了後、日立製作所入社。以降16年に渡り、中央研究所、半導体事業部、エルピーダメモリ(出向)、半導体先端テクノロジーズ(出向)にて半導体の微細加工技術開発に従事。2000年に京都大学より工学博士取得。現在、微細加工研究所の所長として、半導体・電機産業関係企業のコンサルタントおよびジャーナリストの仕事に従事。著書に『日本「半導体」敗戦』(光文社)、『「電機・半導体」大崩壊の教訓』(日本文芸社)、『日本型モノづくりの敗北 零戦・半導体・テレビ』(文春新書)。


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