量子コンピュータ設計を簡素化、柔軟な極低温ケーブル:オランダの新興企業(3/3 ページ)
量子コンピュータ向けの極低温配線技術を開発するオランダの Delft Circuitsは、「Cri/oFlex」と呼ばれる革新的な量子コンピュータ向けケーブル技術を開発した。製品の詳細と開発の狙いを同社CEOに聞いた。
Cri/oFlex製品ファミリーの詳細
Delft Circuitsは、同じ技術をベースに仕様と性能が異なる3つの製品ファミリーを提供している。これらの製品は、量子コンピューティングや天体物理学、光学、計測機器など、さまざまな種類のアプリケーションに対応している。
Cri/oFlex 1
超柔軟なマイクロ波IOケーブルで、走査型プローブ顕微鏡やその他の振動に敏感な機器の要件に対応している。この極低温RFケーブルは非常に薄く柔軟で、振動結合を最小限に抑えて信号を伝送できる。Cri/oFlex 1シリーズは、薄さ0.3mm、細さ1mmのマイクロ波伝送ラインを特長とする。
Cri/oFlex 2
シングルチャンネルのマイクロ波IOケーブルで、冷却装置内の密集したサンプルスペースに適している。サイズが小さく、熱負荷が軽減されるため、クライオスタット内のマイクロ波ライン数を増やすことができる。フレキシブルRFケーブルはモノリシック導波管をベースとし、位相安定性は振動や屈曲の影響をほとんど受けない。Cri/oFlexテクノロジーは、室温から極低温まで、高い柔軟性を維持する。
Cri/oFlex 3
Cri/oFlex 3シリーズは、特に拡張性を重視して設計された同社の主力製品だ。マイクロ波信号処理を内蔵しているため、追加のマイクロ波コンポーネントはほとんど必要ない。
Cri/oFlex 3は体積が小さく、熱負荷が低いため、冷却装置内に設置可能な信号ラインを多数サポートできる。同ケーブルには、最大8つの並列チャンネルが含まれ、チャンネル間ピッチは1mmで、ステージ間のマイクロ波分離は不要だ。
Cri/oFlexの使用例
Delft Circuitsの顧客の多くは、低温でマイクロ波を使用している。顧客であるNASAのJPLチームは、宇宙マイクロ波背景放射を測定するために天体望遠鏡用の検出器を使用している。
両氏は、「彼らは、放射線を検出するために高感度の超伝導検出器(MKID)が必要だ。その信号を読み出すために当社のケーブルソリューションを使用している」と説明した。
MKIDの検出器チップは、望遠鏡の下部に設置されるため、スペースや冷却能力に制約のある特製のクライオスタットが必要となる。検出器アレイの大規模化が進む中、小型で設置が簡単かつ熱負荷が小さいMKIDマイクロ波ケーブルの必要性が高まっているという。
両氏は、「当社売上高の3分の1が、量子コンピュータ分野によるものだ。量子コンピュータが出発点となったが、われわれは宇宙アプリケーションに非常に近い天体物理学、STM(走査型トンネル顕微鏡)やAFM(原子間力顕微鏡)、バイオメディカルイメージングなど、他の応用分野も視野に入れている」と語った。
【翻訳:滝本麻貴、編集:EE Times Japan】
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 433量子ビットのQPUを発表、IBMの最新開発動向
2022年11月に開催された「IBM Quantum Summit」で、IBMは量子コンピューティングの発展/普及に向けた最新の取り組みを紹介した。 - 「量子コンピュータ」〜社会実装は遠くても高い注目度
ここ数カ月の主な量子コンピュータを含め、量子技術関連のニュースをまとめる。 - IBM、半導体など向けでNY州に200億ドル投資へ
IBMは2022年10月6日(米国時間)、半導体、メインフレームコンピュータ、量子コンピュータなどの分野で、今後10年間でニューヨーク州ハドソンバレー地域に200億米ドルを投資すると発表した。 - 産総研が量子アニーリングマシン開発の成果を報告
産業技術総合研究所(産総研/AIST)は2022年9月30日、NEDOの委託事業「量子計算及びイジング計算システムの統合型研究開発」で開発を続けている量子関連のプロジェクトについて、開発成果や、開発に用いている装置などを報道機関向けに説明、公開した。 - 理研、シリコン量子ビットで量子誤り訂正を実現
理化学研究所(理研)は、シリコン量子ドットデバイス中の電子スピンを用いて、3量子ビット量子誤り訂正を実証した。シリコン半導体を用いた量子コンピュータを実現するための基本技術として注目される。 - 数百量子ビット集積の処理装置、5年以内に実現目指す
Oxford IonicsとInfineon Technologies(以下、Infineon)は、完全に統合された量子処理ユニット(QPU:Quantum Processing Units)の開発に向けてパートナーシップを構築した。Oxford Ionicsが開発した電子量子ビット制御(EQC)技術と、Infineonのイオントラップ技術とエンジニアリング、製造、組み立て能力を組み合わせることで、5年以内に数百量子ビットを集積したQPUの商用生産を実現するとしている。