異なるアプローチでNANDの覇権を争うSamsungとMicron:ビット密度と層数
Samsung ElectronicsとMicron Technologyは依然としてNAND型フラッシュメモリ市場で覇権を争っている。最近両社は、種類は異なるものの、いずれも高密度な3D NANDソリューションを発表した。
Samsung Electronics(以下、Samsung)とMicron Technology(以下、Micron)は依然としてNAND型フラッシュメモリ(以下、NAND)市場で覇権を争っている。最近両社は、種類は異なるものの、いずれも高密度な3D NANDソリューションを発表した。
Samsungは3D NANDのビット密度に注力することを選択し、2022年11月、1テラビット(Tb)のTLC(Triple Level Cell)を持つ第8世代の垂直型NAND(V-NAND)の量産開始を発表した。同社はこのV-NANDについて、「業界で最も高いビット密度だ」としている。一方、Micronは最新の3D NANDを層数の観点から示すことを選び、2022年7月に232層3D NANDの量産開始を発表している。
「COP構造」で高いビット密度を実現、Samsungの第8世代V-NAND
Samsungでフラッシュ製品および技術担当エグゼクティブを務めるSungHoi Hur氏は、米国EE Timesとのインタビューの中で、同社がCell-on-Peri(COP)構造によって高いビット密度を達成したと説明した。COP構造は、Samsungが第7世代のV-NANDで導入した手法である。
COP構造では、セルアレイ領域がペリフェラルの上に置かれる。だが、Hur氏によると、COP構造であってもペリフェラルの一部はセルの外に配置されているため、チップサイズを小さくするには、セルアレイの下やそれに隣接するペリフェラルと共にセルアレイを小型化しなくてはならないという。
Samsungは2013年、垂直積層型のV-NANDフラッシュを初めて発表した。同社は、セルの面積と高さを小さくする、HARC(high-aspect-ratio contact)エッチング技術などの多数のノウハウを活用している。Hur氏は「第8世代V-NANDでは、Samsungは前世代品から、3つの部分(セルアレイやその下および隣接するペリフェラル)を全て小型化し、さらなる密度を実現することができた」と述べた。
Samsungが注力する課題として、小型化のためにセルユニットのモールドを小さくした場合に通常生じるセル間の干渉を避けることが挙げられる。Hur氏は「そうした干渉に対抗するため、われわれはまず性能面で可能なトレードオフを特定した。その上で、根本的な問題の解決に取り組んだ」と述べた。
Hur氏は、Samsungのソリューションは、書き込み時の干渉を最小化すること、セル内のブロック絶縁膜に新たな素材を適用し、チャージトラップ層(CTL)からの電荷の漏れを防ぐこと、CTLの構造を改善すること、という3つを目的に開発されたと語った。
Hur氏は、「このようなマイルストーンに達したことは、さまざまな課題を克服したことを意味する」と述べた。構造的な観点からは、スタック全体の高さが伸び続けるにつれ、モールドはより容易に片側に傾きやすくなる恐れがある。「セルが近接/小型化すると、セル電流の減少やセル間の干渉に対処する必要がでる」(同氏)。同社では、第7世代V-NANDで採用したサポート構造とマルチホール技術を活用し、スタックの高さを下げるとともに、新材料を用いた革新的なセル構造など、新しいソリューションの検討も進めている。
Micronの232層3D NAND
近年、3D NANDの進化をリードするMicronは、2020年11月に176層の3D NANDを発表し、128層の3D NANDに注力していた他社を引き離した。同社は、CMOSアンダーアレイ(CuA)アーキテクチャを適用した置換ゲート(RG)技術の採用を強調している。同製品では、層数の増加に加え、ダイサイズも30%の小型化を実現した。
同社は2022年7月下旬に232層3D NANDを発表し、2022年12月上旬には232層ソリューションを搭載した最新クライアントSSDを発表した。
Objective AnalysisのプリンシパルアナリストであるJim Handy氏は、Samsungが1Tbを達成したことについては「驚くようなインパクトはない」と述べる。「それよりも、新たな層数に達したこととインタフェースの速度が非常に高速な点が重要だ」(同氏)
同氏は、「これは、アプリケーションが同じ帯域幅を得るために必要なNANDチップの数が半分になることを意味する」と付け加えた。SamsungとMicronはダイサイズを小型化しているが、COPやCuAといった独自の名称の技術を用いている。
【翻訳:青山麻由子、編集:EE Times Japan】
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