半導体不足解消後の悩みは「半導体過剰在庫問題」へ:大山聡の業界スコープ(61)(2/2 ページ)
今回は、半導体不足が発生した原因から、今に至るまでの現状について分析し、今後の見通しについて述べさせていただく。
不足が続く中で生じた「仮需」
このような状況で調達担当部署では、実際に必要な数量より多めの半導体を発注することになる。100個注文しても80個しか納品されないのであれば、120個、130個と多めの注文を、それも長めの納期を見越して入れるようになるのが常態化してくる。これが仮需の実態といってよいだろう。
すべてのユーザーが冷静になって、半導体の取り合いなどせず、必要な数量を必要なタイミングで注文していれば、半導体の供給には問題などなかったかもしれない。しかし、そうはいかないのが現実だろう。特にマイコン、汎用アナログ、ディスクリートなど用途が多岐に渡る半導体製品は、世界中にユーザーが散在しているので、流通網が正常に機能できなかった昨今では、必要なタイミングで必要な数量を確保できない、という事例が多発していたと考えられるのだ。
着実に終息に向かっている半導体不足
クルマの電動化でパワートランジスタ需要が増えた、という事情を除けば、マイコン、汎用アナログ、ディスクリートの不足問題は、流通網が十分に機能しなかったことおよび、それが仮需を生んだことが原因で発生した、と言いきってよいだろう。一方、この間にファウンドリー各社の生産増強もあり、供給体制はかなり強化されてきた。パワートランジスタについては、2021年から量産開始予定だったInfineon Technologiesの新工場の立ち上げが遅れたことが不足要因の1つに数えられる。しかし、その立ち上げのメドも立った今、長らく続いた不足問題は着実に終息に向かっている。ことし2023年の前半には、パワートランジスタを含めて不足問題が解消する、と筆者は予測している。
WSTSの数値をみると、小信号トランジスタ市場はずっと前年同月比で2ケタ成長を続けていたが、2022年9月からマイナス成長に転じ、2022年11月は2ケタのマイナス成長になってしまった。汎用アナログ市場は2022年11月も同プラス成長を維持しているものの、成長率が2ケタから1ケタに下がるなど、状況が変化しつつある。これは上述したように、仮需が消滅しつつあるとみるのが順当だろう。パワートランジスタ市場は2022年11月もまだ2ケタ成長が続いているが、これは車載を中心に実需が旺盛なので納得できる。マイクロ市場は2022年4月からマイナス成長が続いているが、内訳をみるとMPUが−20%前後、MCUが+20%前後と動向が完全に分かれている。PC需要は低迷しているがクルマや産業機器需要は堅調、という状況が垣間見えてくる。
分からない半導体在庫の所在
不足問題は2023年前半で終息すると思われる。では仮需が生んだ在庫はどうなるのだろうか。流通網が機能しなかった分、半導体の在庫はあちこちに点在しているはずで、実態を把握するのは困難かもしれない。しかし在庫は確実に存在するはずで、スポット市場を注意深く観察することが需要になりそうだ。異常な値崩れなどが発生しないことを願うばかりだが、必要以上の混乱を防ぐために、可能な限り在庫の所在を今のうちに明確に把握することがカギになるだろう。しばらくは半導体商社の各社が活躍するチャンス、ともいえそうである。
編集部からのお知らせ
筆者・大山聡氏がRapidus社長小池淳義氏と対談!
2023年2月14日から3月17日までの会期で実施するオンライン展示会「ITmedia Virtual EXPO 2023 春」(主催:EE Times Japanなど)で、本連載の筆者である大山聡氏(=写真左)とRapidus社長の小池淳義氏(=写真右)の特別対談を公開します。
2nmプロセスの先端半導体の国産化を目指し2022年11月から本格始動したRapidus。ただ、リソース面でもビジネス面でもハードルは高く、「先端ロジックの分野では数十年の遅れ」ともいわれる日本で、Rapidusはどのようにファウンドリービジネスを展開していくのでしょうか。大山氏が小池氏との対談を通して、Rapidusの戦略と勝算に迫ります。
ぜひ、ITmedia Virtual EXPO 2023 春にご参加いただき、特別対談をご視聴ください。(編集部)
>>>「ITmedia Virtual EXPO 2023 春」の詳細、参加登録はこちらから<<<
筆者プロフィール
大山 聡(おおやま さとる)グロスバーグ合同会社 代表
慶應義塾大学大学院にて管理工学を専攻し、工学修士号を取得。1985年に東京エレクトロン入社。セールスエンジニアを歴任し、1992年にデータクエスト(現ガートナー)に入社、半導体産業分析部でシニア・インダストリ・アナリストを歴任。
1996年にBZW証券(現バークレイズ証券)に入社、証券アナリストとして日立製作所、東芝、三菱電機、NEC、富士通、ニコン、アドバンテスト、東京エレクトロン、ソニー、パナソニック、シャープ、三洋電機などの調査・分析を担当。1997年にABNアムロ証券に入社、2001年にはリーマンブラザーズ証券に入社、やはり証券アナリストとして上述企業の調査・分析を継続。1999年、2000年には産業エレクトロニクス部門の日経アナリストランキング4位にランクされた。2004年に富士通に入社、電子デバイス部門・経営戦略室・主席部長として、半導体部門の分社化などに関与した。
2010年にアイサプライ(現Omdia)に入社、半導体および二次電池の調査・分析を担当した。
2017年に調査およびコンサルティングを主務とするグロスバーグ合同会社を設立、現在に至る。
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