「RISC-Vは不可避の存在」、RISC-V Summit 2022詳報:歴史や現状、各社の最新開発動向まで(3/3 ページ)
RISC-V ISAの管理/推進を目指すコンソーシアム「RISC-V International」が2022年12月に開催した「RISC-V Summit 2022」について、当日行われた講演の内容や各社の最新開発動向などを紹介する。
RISC-V採用に舵を切ったMIPS
MIPSは2021年、事業再編を終え、今後のCPU開発にRISC-Vを採用することを表明した。今回のRISC-V Summitでは、Mobileyeが自動運転およびADAS(先進運転支援システム)向けの次世代SoC(System on Chip)「EyeQ」で、MIPSの「eVocore P8700」を採用したことを発表した。Mobileyeはこれまで、同社の既存製品でMIPSアーキテクチャを採用していた。RISC-V採用のP8700は、マルチスレッド/マルチコア/マルチクラスタ設計で、64クラスタ、152コア、1024スレッドまで拡張可能。MIPSは、「内部障害の検知/分離や、チェックアーキテクチャなどのオプションを用意することにより、車載安全規格『ASIL-D』の安全性/信頼性を満たすことができる」と主張する。
SiFive、宇宙用コンピュータへの採用やIntelとの協業
SiFiveのCEO(最高経営責任者)であるPatrick Little氏は、ここ1年間の進捗について詳細を語った。
注目すべきマイルストーンの一つとして挙げたのが、Microchip Technologyとの協業により、NASAのジェット推進研究所(JPL:Jet Propulsion Laboratory)が手掛ける、次世代の宇宙用コンピュータHPSC(High-Performance Spaceflight Computing)のデザインウィンを獲得したことである(HPSCについては、JPLの担当者もカンファレンスの中で取り上げていた)
HPSCプロジェクトの目標は、従来比100倍の性能を実現する宇宙用コンピュータを定義することにある。HPSCは、NASAが今後約10〜20年にわたり確実に利用できるような長寿命で信頼性の高いISAをベースとする必要があり、RISC-Vは、そのような命令セットになると見なされている。従来型の宇宙用コンピュータではPowerPC ISAが採用されてきた。
さらに、SiFiveのマイルストーンとしては、Intel Foundry Services(IFS)との協業により、Intel 4プロセス技術を適用した評価ボード「HiFive Pro P550(Intelコード名「Horse Creek」)」を開発したことが挙げられる。HiFive Pro P550は、2024年に発表予定のRISC-V開発プラットフォームに搭載される見込みだが、SiFiveは今回のカンファレンスの中で、その検証ボードを披露した。
Andes、3nmノード製品は24年に
Andesは、最初期にRISC-Vを活用したCPU IPプロバイダーの1社だ。同社は、ローエンドから着実に各種CPUコアの品ぞろえを構築してきた他、現在ではベクトル拡張も追加している。Andesが発表した新しいハイエンドCPUコア「AX65」は、13段のアウトオブオーダー実行パイプラインを採用する。また、小型コア「NX45V」および「AX45MPV」は、ベクトル演算とスカラー演算を提供する。同社が獲得した重要なデザインウィンの一つに、ルネサス エレクトロニクスの車載用MPU「RZ/Five」がある。Andesは既に、ASIL B準拠の各種コアを提供している。同社は、顧客企業のプロジェクトについて、全ては発表できないとしながらも、5nmノードは生産中で、3nmノードも2024年に予定していることを明かした。
2023年は「ターニングポイント」に
RISC-Vは、引き続きそのエコシステム構築を進めていく予定だが、数名の登壇者たちは、「そのためにはまだ課題が山積みだ」とも明言した。Walden International(以下、Walden)の著名な投資家であるLip-Bu Tan氏は、「プラットフォームやシステムレベルの機能追加や、より多くの開発ボードやソフトウェアツールの性能向上を実現する必要がある」と述べていた。同氏はその上で、「業界や政府は、アーキテクチャに強い関心を寄せている。Waldenは、VentanaやAkena、SiFive、Rivosなどへの投資を行っている」と語った。RISC-V InternationalのCTO(最高技術責任者)であるMark Himelstein氏は、山積する課題について認めながら、「最も優先順位が高いのは、ソフトウェアエコシステム開発である」と述べている。
米国の市場調査会社であるTIRIAS Researchは、「2023年は、重要な半導体やソフトウェアの市場投入が予定されているため、RISC-V命令セットにとってターニングポイントになるだろう」とみているようだ。多くの新興企業のほか、Imagination TechnologiesやXMOSのような老舗企業もRISC-Vを採用している。RISC-Vの主流化への歩みは止められないようだ。もはや「避けられない」と言うべきかもしれない。
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
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