CHIPS法の資金を狙う米最大のMEMSファウンドリー:「最適の候補」と主張(2/2 ページ)
米国のCHIPS法による、520億米ドルの補助金は2023年に公布が開始する予定だ。米国のMEMSファウンドリーであるAtomicaも、この補助金獲得を目指しているという。
過去には中国による買収提案も
Atomicaは、同社が米国最大のMEMSファウンドリーであると主張している。
Sigler氏は、「MEMSファウンドリーは世界にほとんど残っておらず、当社の最大の競合であるSilex Microsystemsは現在、中国政府が所有している」と指摘する。
ドナルド・トランプ前米大統領の政権時代、中国の投資家は後にAtomicaとなる同社(当時はInnovative Micro Technology:IMT)の買収に興味を持っていたという。
Sigler氏は、「2017年の中国訪問時に、会社売却に関するいくつかの素晴らしいオファーを受けた。非常に魅力的な買収提案が用意されており、最終合意に至ったが、機密技術が海外に売却されないようにするためにCFIUS(対米外国投資委員会)と協議する必要があった」と述べている。
協議の結果、この取引は破棄された。
同氏は、「買い手が明らかに国有企業であったことから、全取引がご破算になった。中国は、この業界でできる限りの企業を買収していた」と述べている。
同社の投資家は、Sigler氏に他の取引を探すように要請したという。同氏は、「米国内のプライベートエクイティファームから、非常に低額のオファーがいくつかあったが、率直に言って、不動産ほどの価値さえなかった」と述べている。
Sigler氏とAtomicaの前身であるIMTのCEOは、同社の買収を提案した。Sigler氏は、「われわれは、いわゆるセールリースバック取引で不動産を借り換えることで資金を調達した」と付け加えた。
Atomicaは、再編以来、損益分岐点付近で推移している。IMT設立前となる20年以上前、同社はApplied Magneticsとして知られ、Seagate TechnologyやWestern DigitalなどのHDDメーカー向けに読み書きヘッドを製造する10億米ドル規模の企業だった。
Atomicaは、CHIPS法対象の「最適候補」
Sigler氏は、「Atomicaは、CHIPS法にとって『模範生』のようなものだ」と主張する。
「米国経済にとってより重要なのは、LiDARメーカー20社が、自社工場を建設することなくチップを製造できる場所があることだ。これらの企業を支援する米国唯一のファウンドリーとして、当社はインセンティブを受けるのに最も適した候補であることは確かだ」(同氏)
同社は、TSMCやIntel、Micron Technologyなどの大企業と競争することになる。これらの企業は、既に米国で数十億米ドル規模の投資を発表しており、CHIPS法の資金を獲得する可能性が高い。
Sigler氏は、「520億米ドルのうち、国防授権法9902条による390億米ドルが、当社のようなメーカーへの直接的な奨励金だ。また、NSTC(国立半導体技術センター)のような他の資金源もある。私たちは、NSTCの資金を獲得するための連合に加盟している」と語った。
同氏はさらに、「米国は、必要なツールや最新の能力とプロセスを持つ、競争力のあるMEMSファウンドリーを求めている」と述べた。
「われわれの競合にはSilexのような何億米ドルもの政府資金を獲得している企業がいる。当社は民間の中小企業として、政府の支援を受けた全ての企業に対抗しようとしている」(同氏)
【翻訳:滝本麻貴、編集:EE Times Japan】
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