実験室の機能を数cmサイズに集積したマイクロ流体デバイス:福田昭のデバイス通信(386) 2022年度版実装技術ロードマップ(10)
JEITAの「2022年度版 実装ロードマップ」を紹介するシリーズ。今回は、第2章「注目される市場と電子機器群」から「マイクロ流体デバイス」の概要を簡単にご紹介する。
数十μm〜数百μmサイズの微小な流路や反応容器などを形成
電子情報技術産業協会(JEITA)が3年ぶりに実装技術ロードマップを更新し、「2022年度版 実装ロードマップ」(書籍)を2022年7月に発行した。本コラムではロードマップの策定を担当したJEITA Jisso技術ロードマップ専門委員会の協力を得て、ロードマップの概要を第377回からシリーズで紹介している。
本シリーズの第6回から、第2章「注目される市場と電子機器群」の第3節(2.3)「ヒューマンサイエンス」より第2項(2.3.2)「メディカル」の概要を報告してきた。「メディカル」は4つの項目、すなわち「手術支援ロボット」(2.3.2.1)、「マイクロ流体デバイス」(2.3.2.2)、「感染症とPCR検査、遺伝子検査、迅速検査」(2.3.2.3)、「バイオセンサ」(2.3.2.4)で構成される。
前回は、「手術支援ロボット」(2.3.2.1)から「(5)医療診断におけるAI活用状況」部分の概要を報告した。今回は、「マイクロ流体デバイス」(2.3.2.2)の概要を簡単にご紹介する。
「2022年度版 実装ロードマップ」第2章「注目される市場と電子機器群」の第3節(2.3)「ヒューマンサイエンス」[クリックで拡大] 出所:JEITA Jisso技術ロードマップ専門委員会(2022年7月7日に開催された完成報告会のスライド)
「マイクロ流体デバイス」(「マイクロ流路デバイス」「マイクロ流体チップ」「マイクロ流路チップ」とも呼ぶ)とは、微細加工技術によって数十μm〜数百μmサイズの微小な流路や反応容器などを形成したデバイスを指す。応用範囲は広く、化学、医療、バイオテクノロジー、ライフサイエンス、環境、農林水産、食品などに及ぶ。
高速の化学反応を超小型デバイスで実行
マイクロ流体デバイスは数多くの利点を備える。まずサイズが小さく、また試料が少量で済む。扱いには高度な技能を必要とせず、化学反応に要する時間が短く、高速な操作が可能である。実験室や分析室などの機能をワンチップにまとめていることから、海外では「Lab-on-a-Chip(LoC)」「μ-total analysis system(μTAS)」などと呼ぶことが多い。
デバイスの外形寸法は光学顕微鏡の観察用標本(プレパラート)と同じ、75.5mm×25.5mm×1.5mm(「スライドガラス型」と呼ぶ)であることが多い。幅を約2倍の50mmに拡大したダブルスライド型(75.5mm×50mm×1.5mm)、さらにサイズを大きくしたマイクロタイタープレート型(127.8mm×85.5mm)もあり、市販されている。デバイスの材料には樹脂、石英ガラス、シリコン(Si)などがある。樹脂は材料と加工のコストが低い。代表的なマイクロ流体デバイス用樹脂はPDMS(polydimethylsiloxane、ポリジメチルシロキサン)である。
デバイスにはさまざまな機能を備える素子が搭載される。素子には液体の流路であるチャンネル、薬液や試薬などの保管容器であるブリスター、外部と液体をやりとりするインタフェース、複数の試薬を混合するミキサー、化学反応の容器であるチャンバー、流体の方向を切り替える回転バルブ、薄膜状の濾過フィルター(メンブレンフィルター)、液体を送出するポンプなどがある。
「マイクロ流体デバイス」の構造例(この図面はロードマップ本体には掲載されていない)[クリックで拡大] 出所:ASICON「microfluidic ChipShop Lab-on-a-Chipカタログ第7版」(2022年9月発行)
「マイクロ流体デバイス」(2.3.2.2)は、以下のような項目で構成される。「1.背景」「2.マイクロ流体デバイスの概要」「3.マイクロ流体デバイスの構成」「4.マイクロ流体デバイス材料」「5.マイクロ流体デバイスの作製方法」「6.マイクロ流体デバイスの応用例」である。誌面の関係から、本稿では各項目の内容は省略する。詳しくはロードマップ本体を参照されたい。
なお、「2022年度版 実装技術ロードマップ」(書籍)の購入特典情報に変更があった。購入者特典である解説動画のオンライン視聴期限が当初の2022年12月31日から、現在は2023年6月30日に延長されている。詳しくはJEITAのウェブサイトからこちらを閲覧されたい。
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