半導体ポリマーを結晶化、OPVの変換効率を約2倍に:結晶化促進のメカニズムも解明
広島大学と京都大学および、高輝度光科学研究センターらによる共同研究チームは、半導体ポリマーの結晶化により、塗布型有機薄膜太陽電池(OPV)の変換効率を、従来に比べ約2倍に高めた。有機半導体の結晶化を促進させるメカニズムも解明した。
PTzBTEとY12を組み合わせた素子で、約15%の変換効率
広島大学大学院先進理工系科学研究科の尾坂格教授や斎藤慎彦助教、京都大学大学院工学研究科の大北英生教授やKIM Hyung Do助教および、高輝度光科学研究センター放射光利用研究基盤センターの小金澤智之主幹研究員らによる共同研究チームは2023年2月、半導体ポリマーの結晶化により、塗布型有機薄膜太陽電池(OPV)の変換効率を、従来に比べ約2倍に高めたと発表した。有機半導体の結晶化を促進させるメカニズムも解明した。
OPVの発電層には、正電荷を輸送する「p型有機半導体」と、負電荷を輸送する「n型有機半導体」の混合膜が用いられる。OPVの効率を向上させるには有機半導体の結晶性を高める必要がある。ところが、異なる有機半導体を混ぜた状態で結晶化させることは、極めて難しかったという。
そこで広島大学の研究グループは、p型有機半導体として2種類の結晶性半導体ポリマーを、n型有機半導体として計4種類のフラーレン系と非フラーレン系材料をそれぞれ用い、これらの組み合わせによって、OPVの効率がどのように変わるかを調べた。
具体的には、p型有機半導体として広島大学のグループが開発した「PTzBT」と「PTzBTE」という2種類の半導体ポリマーを、n型有機半導体としては、フラーレン系材料の「PCBM」と、非フラーレン系材料の「IT-4F」「Y6」および「Y12」を、それぞれ用いた。これらを組み合わせ、合計8種類のOPV素子を作製し、その特性を評価した。
この結果、IT-4FとY6を用いた素子では、PTzBTEの方がPTzBTを用いた場合に比べ、外部量子効率が極めて高くなることが分かった。エネルギー変換効率は、IT-4F素子の場合、PTzBTEで12.0%、PTzBTでは8.7%となった。Y6素子の場合には、PTzBTEで13.4%、PTzBTでは7.0%となった。半導体ポリマーとしてPTzBTEを用いると、PTzBTの場合に比べ約2倍となった。なお、PTzBTEとY12を組み合わせた素子では、約15%の変換効率が得られたという。
8種類の混合膜について、大型放射光施設SPring-8のBL13XUとBL46XUにおいてX線回折測定を行った。この結果、PCBMとY12を用いた混合膜では、PTzBTもPTzBTEも高い結晶性を示した。IT-4FとY6を用いた混合膜だと、PTzBTEでは高い結晶性を示したが、PTzBTだと非晶性になった。これにより、ポリマーの結晶状態とOPV特性はよく相関していることが分かった。
さらに、組み合わせるn型有機半導体の違いにより半導体ポリマーの結晶状態が変化する状況について、分光測定などにより解析した。この結果、凝集性の違いによるものだと判明した。PTzBTは、PCBMやY12など凝集性の高いn型有機半導体と組み合わせると、結晶状態を形成する。逆に、IT-4FやY6など凝集性の弱いn型有機半導体との組み合わせでは、非晶状態を形成するとの考えを明らかにした。
一方、PTzBTEは側鎖のエステル基上の酸素原子が、ポリマー主鎖の硫黄原子と非結合性相互作用を持つ。このため、ポリマー主鎖は非常に剛直な構造となって、さまざまなn型材料と組み合わせてもうまく相分離し、結晶状態を形成するとみている。
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