東京大ら、半導体界面の2次元電子ガスを直接観察:原子レベルの電磁場観察手法を用い
東京大学は、ソニーグループと共同で半導体界面にナノメートルレベルで蓄積した2次元電子ガスを直接観察することに成功した。
電子移動度やスイッチング特性のさらなる向上も
東京大学は2023年3月、ソニーグループと共同で半導体界面にナノメートルレベルで蓄積した2次元電子ガスを直接観察することに成功したと発表した。
GaN系デバイスは、次世代の通信用高周波デバイスや電力変換用パワーデバイスとして注目されている。特に、高電子移動度トランジスタ(HEMT)は、半導体界面に2次元電子ガスの層が発生し、この層を電子が高速に移動するため、高周波動作に優れているという。ところがこれまでは、2次元電子ガスを直接観察することが極めて難しかった。
研究グループは今回、独自開発の傾斜スキャンシステムと超高感度・高速分割型検出器を搭載した「原子分解能磁場フリー電子顕微鏡(MARS)」を用い、窒化ガリウム/窒化アルミニウムインジウム(GaN/AlInN)ヘテロ界面に蓄積した2次元電子ガスを直接観察することにした。観察には、東京大学の柴田直哉教授らが開発した、原子レベルの電磁場観察手法である「原子分解能微分位相コントラスト(DPC)法」を用いた。
実験では、格子整合をしたひずみのわずかな界面(LM−界面)と、AlInN層の組成を変化させてひずませることで圧電分極を加えた界面(PM−界面)について確認した。この結果、LM−界面とPM−界面の電場像はいずれも、界面のGaN層側に数ナノメートル程度の幅で左向きの電場を確認できた。このコントラストは界面に2次元電子ガスが生成していることを示すものだという。また、PM−界面がLM−界面よりも大きな電場強度を示していて、より多くの2次元電子ガスが蓄積していることが分かった。これらの実測値は、ポアソン方程式を用いたシミュレーションの結果とよく一致している。
実験で得られたGaN/AlInN界面に垂直な方向の電場成分のラインプロファイルについて、マックスウェル方程式を用い電荷密度に変換した。これによりLM−界面、PM−界面のいずれにも、GaN側にマイナスの電荷が蓄積していることが分かった。これが2次元電子ガスである。一方、AlInNには逆にプラスの電荷が生成されることを確認した。
実験で得た電場プロファイルから、解析モデルを用いて各種パラメータを抽出し、2次元電子ガスのシートチャージ密度を算出した。この結果、ホール測定で見積もりをしてきたこれまでのシートチャージ密度と、高い精度で一致したという。
研究グループは、今回開発した計測手法をデバイス界面の解析に応用すれば、「電子移動度やスイッチング特性のさらなる向上につながる」とみている。
今回の成果は、東京大学大学院工学系研究科附属総合研究機構の柴田直哉機構長・教授、遠山慧子大学院生、関岳人助教、幾原雄一教授らによるグループと、ソニーグループの冨谷茂隆ディスティングイッシュトリサーチャー、蟹谷裕也統括課長、工藤喜弘統括部長との共同研究によるものである。
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