二次元超伝導体、磁場に対し強固な超伝導を実現:基板の切り出し角で「乱れ」を制御
東京大学は、結晶性の高い二次元超伝導体であるSi(111)基板上に形成したPb(鉛)原子層超伝導薄膜の特性を評価したところ、磁場に対し強固な超伝導が実現できることを明らかにした。
表面電気伝導測定とSTM測定で、原子層超伝導体を評価
東京大学は2023年3月、結晶性の高い二次元超伝導体であるSi(111)基板上に形成したPb(鉛)原子層超伝導薄膜の特性を評価したところ、磁場に対し強固な超伝導が実現できることを明らかにした。
今回の研究は、物質・材料研究機構(NIMS)の研究グループと協力して行った。二次元超伝導体は、構造欠陥などの乱れに弱く、それが増えると超伝導−絶縁体転移を生じるといわれている。近年は、結晶性が高く乱れの少ない二次元超伝導体を作製できるようになり、その応用が注目されている。ただ、二次元超伝導の量子相転移現象などについては、まだ詳細に解明されていないという。
研究グループは今回、走査トンネル顕微鏡(STM)を用い、Si(111)基板上のPb原子層超伝導体について、その特性などを評価することにした。超伝導に対し、基板表面上に形成されるステップが「乱れ」として作用する。このため、基板の切り出し角を変えれば、「乱れ」を系統的に制御できるという。
今回の実験では、さまざまなステップ密度の原子層超伝導体を用意した。そして、表面電気伝導測定により「面直磁場下での超伝導特性」を、STM測定により「渦糸などの局所的な超伝導特性」を、それぞれ評価した。
この結果、絶対零度近傍では、ステップ密度が大きい薄膜ほど、より高い磁場でも超伝導状態が残った。STMによるトンネル分光像からは、ステップ平行方向に伸びた渦糸を観察することができた。これらの結果は、「コヒーレンス長の抑制が臨界磁場の増大を誘起する」という理論的な振る舞いと定量的に一致しており、ステップ導入によって臨界磁場が増大することを実験で確認した。
(a)は微傾斜面のSTM像と面直磁場120mT下で取得したゼロバイアスコンダクタンス(ZBC)の分布図。(b)はステップの少ない平たん面で観測される通常の渦糸と、微傾斜面で観測される渦糸の模式図 出所:東京大学
今回の研究成果は、東京大学物性研究所の佐藤優大大学院生、土師将裕助教、長谷川幸雄教授のグループと、物質・材料研究機構(NIMS)国際ナノアーキテクトニクス研究拠点表面量子相物質グループの根本諒平研究員、Wenxuan Qian大学院生、内橋隆グループリーダーおよび、先端材料解析研究拠点の吉澤俊介主任研究員らによるものである。
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