偏光空間構造を用い、スピンの空間構造を直接生成:情報量の大容量化を可能に
東京理科大学と千葉大学、東北大学、筑波大学の研究グループは、ラゲールガウシアンビームの一種である「ベクトル光渦」と呼ばれる偏光の空間周期構造を、スピンの空間周期構造として半導体量子井戸中へ直接生成することに成功した。
方位角依存の偏光周期構造を持つベクトル光渦を利用
東京理科大学と千葉大学、東北大学、筑波大学の研究グループは2023年3月、ラゲールガウシアンビームの一種である「ベクトル光渦」と呼ばれる偏光の空間周期構造を、スピンの空間周期構造として半導体量子井戸中へ直接生成することに成功したと発表した。今回の研究成果は、情報量の大容量化につながるとみられている。
円偏光を利用した固体中へのスピン生成にはこれまで、均一な偏光分布を持つ基本のガウシアンビームが用いられてきた。この方法だと、一方向にそろったスピンが生成されるという。そこで今回は、軌道角運動量に起因して方位角依存の偏光周期構造を持つベクトル光渦を利用することにした。
具体的には、ボルテックス1/2波長板と1/4波長板を用いて、ガウシアンビームからベクトル光渦を生成。これを用いて偏光とスピンの変換を行った。この結果、ベクトル光渦の偏光周期構造がスピン分布に変換され、円周上にスピン状態が2周期繰り返されるスピンの空間構造を確認できたという。
空間周期構造のひねり数は、ベクトル光渦のトポロジカル数で決まる。このため、ベクトルビームのトポロジカル数を1つ増やせば、円周上でスピン状態が4周期繰り返されるスピンの空間構造を生成することができる。トポロジカル数をさらに増やしていけば、スピン情報を高密度化することが可能だという。
また、半導体中で電子スピンに作用するスピン軌道相互作用の有効磁場を利用すれば、「横方向にはスピン状態が繰り返され、縦方向にはスピン状態が反転する」という、特徴的なスピンの空間構造が生成されることも明らかにした。研究グループは、「ベクトル光渦によるスピン空間構造の直接生成と、固体中の有効磁場を組み合わせることで、さまざまなスピン空間構造が固体中で生成できるようになる」とみている。
今回の研究成果は、東京理科大学理学部第一部応用物理学科の石原淳講師と宮島顕祐教授、千葉大学大学院工学研究院の森田健教授、東北大学大学院工学研究科知能デバイス材料学専攻の好田誠教授、筑波大学数理物質系の大野裕三教授らによるものである。
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