短波長赤外イメージング市場、2028年に29億ドル規模に:スマホへの採用で急拡大へ
フランスの市場調査会社Yole Groupは2023年4月、短波長赤外(SWIR)イメージング市場が2022年の3億2200万米ドルから年平均成長率44.2%で成長し、2028年には29億米ドル規模になるという予測を発表した。
フランスの市場調査会社Yole Group(以下、Yole)は2023年4月6日(フランス時間)、短波長赤外(SWIR)イメージング市場が2022年の3億2200万米ドルから年平均成長率(CAGR)44.2%で成長し、2028年には29億米ドル規模になるという予測を発表した。
民生分野、2028年までCAGR86%の急成長へ
SWIRイメージセンサーは現在、その多くが高コストなInGaAs(インジウム・ガリウム・ヒ素)ベースで、主に防衛分野においてレーザーターゲットを定める用途で採用されている。2022年の市場規模は同分野が2億2800万米ドル、2番目に大きな産業分野(プラスチックや食品の選別、ソーラーパネル検査、コンテンツ検査などのマシンビジョン用途)で8900万米ドルという規模で、出荷数でみると1万1740台と、「SWIRイメージングは2022年、まだニッチな産業だった」(同社)
Yoleは今後、防衛分野では、ロシアのウクライナ侵攻や台湾周辺をはじめとした地政学的緊張および、SWIRイメージング技術に対する各国の関心の高まりにけん引され、2028年までCAGR10.1%の成長をみせ4億500万米ドル規模へ、産業分野も安定した需要と価格低下から2028年までCAGR28.3%と伸び3億9500万米ドル規模へと、それぞれ堅調に拡大することを見込んでいる。
ただ、2028年までに急成長を遂げ、市場シェアの大半を占めるとYoleが予測するのは、民生分野だ。OLEDディスプレイは、近赤外線(NIR)よりSWIR波長に対して透過性が高い。同社は民生分野で展開可能な低コストのSWIRイメージング技術開発が加速し、2026年以降フラグシップスマートフォンの顔認識モジュールのディスプレイ下埋め込みため、SWIRイメージング技術がNIRに取って代わる可能性があると見込んでいる。
Yoleは、こうして3Dセンシングモジュールとしての採用が拡大することで、民生分野は2028年までCAGR86%と急拡大し、20億7400万ドルの市場規模となると予測。さらに2028年以降は、低価格帯スマホやAR(拡張現実)/VR(仮想現実)ヘッドセットなどへの搭載も進み、「屋外でのトラッキングや3Dセンシング、マルチスペクトルイメージングで優れた性能を発揮できるだろう」(同社)としている。
なお、このほか車載分野でも、ADAS(先進運転支援システム)での採用拡大によって2028年までCAGR41%で成長し、1900万米ドル規模になる見込みだという。
CMOSイメージセンサーメーカーがゲームチェンジャーに
現在、SWIRイメージング市場シェアは、トップのSCDにSensors Unlimited、Teledyne FLIRと続くが、これらはいずれも戦略的な目的で政府の支援を受けてSWIRイメージング技術の開発を行う大手防衛企業の子会社だ。Yoleは、「ソニー(InGaAsを用いた安価なSWIRイメージセンサーを開発)、あるいはSWIR Vision Systems、Emberionのような量子ドットベースのカメラを手掛ける企業は、高解像度と拡張スペクトルレンジを有する製品で価格優位性があり、大きな成長の可能性を秘めている。また、STMicroelectronics、TriEye、Artiluxのような新規参入企業は、民生/自動車市場に対応する新しい破壊的技術を有している」と述べている。
Yoleは特に、CMOSイメージセンサーメーカーについて、「その生産能力と独自の設計/統合ノウハウによって、ゲームチェンジャーとなることができるだろう」と強調。既にSWIRイメージング技術の開発を進めているのはソニーとSTMicroelectronicsのみだが、こうした企業が民生分野向けにコストと性能の要求を満たした製品を展開することで、市場シェアを急拡大する可能性があるとしている。
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