糖尿病網膜症を計測できる無線回路を開発、早大:センサー感度を2000倍に
早稲田大学は2023年4月10日、センサー感度を2000倍にできる新原理の無線回路を開発したと発表した。スマートコンタクトレンズに搭載し、涙中糖度を計測することで、糖尿病網膜症の早期発見/治療への活用が期待できる。
早稲田大学は2023年4月10日、センサー感度を2000倍にできる新原理の無線回路を開発したと発表した。「PT対称性」を持つ共振結合回路(並列接続)で、検出機器側に負性抵抗を搭載することで効果を得るため、従来型センサー回路をそのまま利用できる。
同技術は、コンタクトレンズに搭載することで、世界の失明原因第1位である糖尿病網膜症の計測/発見につながる涙中糖度の測定できる。また、体内埋め込みデバイスに応用することで、細菌などの病原微生物に感染することで起こる敗血症のバイオマーカー(判断指標)である血中乳酸の測定も可能だ。なお、「ヒト以外の犬などのペット産業にも応用できる」(同大学)という。
PT対称性とは、空間座標を反転しても物理法則が変わらないことを意味する空間反転対称性(Parity symmetry)と、時間の進む向きを反転しても物理法則が変わらないことを意味する時間反転対称性(Time-reversal symmetry)の2つを組み合わせた対称性のことである。
涙中糖度を計測する場合、計測対象が0.1〜0.6mMと微弱な信号変化であるため、既存のLoss-Loss 結合回路では読み取りが難しかった。一方で、Gain-Loss結合回路を用いた場合、結合系のQ値(共振回路における共振のピークの鋭さを)を理想的に高くすることができるため、高感度な無線計測が実現可能だ。しかし、既存技術の回路系では、センサー側に溶液抵抗を含む高抵抗な糖度センサーを直接組み込むことはできず、微弱な抵抗変化を共振回路特性に反映することは困難だった。
同技術は、Gain-Loss結合のセンサー側に2極式バイオセンサー(化学抵抗器)を並列に接続することで、共振回路の振幅変調(AM)を実現した。また、並列接続共振回路におけるPT対称性について、理論的かつ実験的に共振回路における共振の結合系のQ値を高感度化したことで、微弱な生体信号を無線で計測するに成功した。同技術をセンサーに組み込むことで、涙中糖度を0.05mM単位で見分けることができ(健常者の糖度: 0.05-0.2 mM、糖尿病患者の糖度:0.15-0.5mM)、糖尿病患者の健康管理や糖尿病網膜症の無線計測が可能になった。
体内埋め込みデバイスにおいては、無線給電および無線計測を実現する際、皮膚で誘電損失があるため、給電効率および計測感度が著しく低下していた。同大学の実験では、皮膚によって計測インピーダンスが4分の1低下し、無線計測(血中乳酸濃度)の感度も低下することが分かった。
しかし、同技術は、皮膚抵抗を加味した負性抵抗を調整(チューニング)できるため、高いセンサー感度を維持させたまま無線計測が可能となる。研究では、敗血症(乳酸アシドーシス)のバイオマーカーで知られる血中乳酸を測定対象とし、敗血症が疑われる患者の乳酸濃度(0-4.0 mM)の無線計測にも成功している。
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