AIで「救急医療の死亡率25%減」を目指す新興企業:第7回J-TECH STARTUP SUMMIT
TXアントレプレナーパートナーズは2023年2月16日、成長が期待される国内の技術系スタートアップの認定式および講演会を開催した。本稿では、認定された6社のうち2社を紹介する。
TXアントレプレナーパートナーズは2023年2月16日、成長が期待される国内の技術系スタートアップ「J-TECH STARTUP 2022」の認定式および講演会「第7回J-TECH STARTUP SUMMIT」を開催した。講演会には認定された6社が登壇。本稿では、そのうち2社を紹介する。
現役救命医らが作る、CT画像診断AI
救急医療の質向上を目指すfcuro(フクロウ)は、同社の代表取締役CEOかつ現役の救命医でもある岡田直己氏が登壇し、全身検索型画像診断AI(人工知能)「ERATS(ER Automated Triage System)」を紹介した。
ERATSは、CT検査の結果をAIが数秒で解析し、CT画像と共に異常の有無や患部を表示する。現状肉眼で行っているCT検査結果の確認作業をAIで自働化することにより、患部(異常箇所)の発見に掛かっていた数分の時間を数十秒に短縮することができる。これにより、医師は、表示された箇所に絞って確認することで効率的な診断が可能となる。同社は、ERATSを通じて1分1秒を争う医療現場の診療時間短縮を行い、救急医療での死亡率を最大25%削減することを目標に研究を進めている。
岡田氏は、「交通事故は日本国内で年間50万件発生し、毎日10人が亡くなっている。救急搬送されてきた時点で、患者に残された命の時間は約15分と非常に短いが、多くの場合、患者の身体の表面から異常箇所を正確に診断することは難しく、CTを使って患者の身体の内部を撮影/診断する必要がある。医師は限られた時間の中、平均で20〜30枚、多い時で1000枚のCT画像から異常を肉眼で確認するため、日々、焦りや見落としリスクと向き合っている」と現役医師の目線で「時間」の重要性を語った。
同技術は、既に全国14カ所の共同研究病院での実証実験を進めている。岡田氏は今後について、「コア技術の開発は既に完了していて、現在は実証実験や改良を行い、エビデンス構築をしている段階だ。2024年度までにエビデンス構築を終え、2025年からは医療機器として正式販売を予定している」と発表した。
モーター/ロボット開発・製造・販売、製品開発支援・コンサルティング
「高齢や病気になっても楽しく生活できる社会」の実現を目指すPiezo Sonicは、非通電でも位置や姿勢を維持できる「ピエゾソニック モータ」を紹介した。同製品は、電圧を加えると変形する圧電セラミックを使用した超音波モーターで、小型で力が強く、静音で、静止時に電力が必要ないという特長を持つ。
ピエゾソニック モータ内には、ステーターと呼ばれる圧電セラミックの変形量を増幅させる金属部品があり、この変形量の調整により、ステーター表面での回転運動を生み出している。回転運動は、ステーターに押し付けられているローターに摩擦力によって伝達される。さらに、ローターに固定されているシャフトを通じてモーターのトルク、回転を外部に伝える。摩擦力は常時発生しているため、非通電時や非制御時でも位置/姿勢を保つことができる。
同社は、ピエゾソニック モータを使用した搬送用ロボット「Migrty-D3」も紹介した。同製品は、月面探査ローバーの技術を応用したロボットで、凹凸のある悪路でも周辺環境を認識した上で自律走行できる。耐荷重は30kg、対応路面は最大傾斜15度、乗越え最大15cm、移動可能時間は8時間となっている他、真横移動や旋回にも対応している。
同製品は、工場内の運搬作業や公共施設などでの巡回、利用者の支援を目的に使用を想定していて、一部の協力工場や熊本県八代市の市役所内では既に実証実験を行っている。また、磁石やコイルを使用しないため、磁気を使用するMRIや地場の影響を嫌う半導体製造装置の近くでも使うことができる。
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