RISC-V向けの包括的なソフト開発環境を実現:イーソルら4社が強みを融合させ開発
イーソルは、エヌエスアイテクスや京都マイクロコンピュータおよび、OTSLと共同で、次世代プロセッサIP「RISC-V」向けの包括的なソフト開発環境を実現した。マルチコア対応高性能ランタイム環境(RTE)において、処理時間を平均で71%も短縮できるという。
マルチコア対応RTEで、処理時間を平均で71%も短縮
イーソルは2023年4月、エヌエスアイテクスや京都マイクロコンピュータおよび、OTSLと共同で、次世代プロセッサIP「RISC-V」向けの包括的なソフト開発環境を実現したと発表した。マルチコア対応高性能ランタイム環境(RTE)において、処理時間を平均で71%も短縮できるという。
今回の成果は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が取り組んできた「高効率・高速処理を可能とするAIチップ・次世代コンピューティングの技術開発」の一環である。この開発プロジェクトでは、既存のRISC-V向け開発環境をベースに、RISC-Vコア向けのOSや開発ツールの開発および、実証評価を行い、「RISC-V搭載の組み込みシステムに向けて、包括的で使いやすい開発環境の実現」を目指してきた。
具体的には、「処理効率・リアルタイム性の確保」や、「より高速で高効率、低消費電力のランタイム環境(RTE)」および、「コンパイラ基盤、並列プログラム処理のための開発ツール」を実現することとした。
RISC-Vに向けたRTEや開発環境は、これまでも多くの企業からさまざまな製品が供給されてきた。しかし、システム設計者がこれらのツールを利用するには、自身でツールを組み合わせる必要がある。このため、RISC-Vの性能や特長をフルに引き出すには、RISC-Vや開発環境に対する十分な経験と知識が必要であった。そこで今回、イーソルなど4社がそれぞれの強みを融合させ、RISC-V搭載のエッジコンピュータでAI処理を可能にする、包括的なソフト開発環境を開発することにした。
開発に成功した包括的なソフト開発環境は、具体的な開発目標を達成することによって、いくつかの性能向上を図った。研究グループは具体的に4つの成果を挙げた。1つ目は、POSIX(ポータブルオペレーティングシステムインタフェース)標準のAPI(アプリケーションプログラミングインタフェース)処理時間を従来に比べ平均で71%も短縮したことである。
2つ目は、セキュアオープンアーキテクチャ向け並列化対応開発環境の設計・開発において、従来に比べ並列化効率を25%改善し、ソフトウェア開発ターンアラウンドタイム(TAT)を50%改善した。
3つ目は、セキュアオープンアーキテクチャ向けベクトル化Cコンパイラの設計・開発により、自動的に適切なRVV命令を生成するコンパイラ基盤を開発。これにより、直接イントリンシック関数を記述した場合と比べ、機能は同等で性能は目標値である80%以上を達成し、10倍以上も生産性を改善することができたという。
そして4つ目は、セキュアオープンアーキテクチャ対応RTEのオープンソース化実証および対応評価環境の設計・開発で、ツールチェーンと連携可能なRTEを開発。LLVM(ロウレベルバーチャルマシン)と連携する部分の無駄を排除することで、リアルタイムOSの起動やタスク切り替えなどで20%以上の時間を短縮できたという。
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