ぜい弱なPCB業界の再建に向け苦悩する米国:半導体製造への再投資を進めるも(2/2 ページ)
半導体製造への再投資を加速する米国。だが、専門家たちは米国のエレクトロニクスサプライチェーンのぜい弱性を指摘する。その一つがPCB(プリント配線板)だ。
米サプライチェーンのぜい弱性が浮き彫りに
PCBのギャップを埋めるための取り組みが進んだことで、半導体チップや半導体パッケージング、基板レベルに至るまで、米国のエレクトロニクスサプライチェーンにおけるさまざまなぜい弱性が浮き彫りになった。
米国のPCB業界を復活させるためには、国内の製造業者が、防衛関連の売り上げだけでなく、コンピュータや通信、医療用システムなどで使われている基板に向けた、ハイエンドの商用分野におけるシェアを拡大する必要がある。そのサポート役となるのが、2022年に発表された「Supporting American Printed Circuit Boards Act(米国プリント基板支援法)」(通称HR 7677)という法的措置だ。
Pillai氏は、「米国政府は2023年3月の取り組みにより、HR 7677をはじめ、さまざまな措置に対する認識とサポートを強化している。HR 7677は、米国内に最先端のPCB工場を2〜3件設立するという成果につながるだろう」と述べる。
この措置提案は、2022年5月6日に議会の前会期で提出されたものの、採択には至らなかった。だが、製造拡大に向けて30億米ドルの資金を提供するという。最先端のPCB工場を建設するには、2年の期間と約4億米ドルの費用を要する。一方、最先端の半導体工場の建設には、約200億米ドルもの費用がかかる。
この法案は成立しなかったが、その条項が他の法案に含まれる形で法律になる可能性がある。
Pillai氏は、「H.R. 7677は、PCB工場建設に加え、需要側の刺激策として、税金控除の要素を提供することにより、米国製PCBを購入するメーカーが税金を軽減できるようにする」と述べる。
さらに同氏は、「インセンティブの適切なバランスをとることにより、政府が全ての資金を提供するのではなく、民間資金と組み合わせて、中国との競争条件がもう少し公平になるようサポートしていく」と付け加えた。
PCBAAのSchild氏は、「米国に残っている基板メーカーは全て、商業市場や航空宇宙/防衛市場にサービスを提供しているが、現在海外サプライヤーとの非常に厳しい競争に直面している。外国政府が、土地や設備、労働力などに対して多額の助成金を提供しているからだ」と述べる。
PCB製造は、半導体製造と同じくらい複雑なエレクトロニクスエコシステムの一部である。
Pillai氏は、「PCB設計のイノベーションは、電子システムの高速化をサポートする。回路基板は、プロセッサと高速データとをつなぐ高速道路のようなものだ」と指摘する。
Schild氏によれば、米国のPCB産業はほぼ“絶滅状態”だという。「米国には、(基板用)ガラス繊維メーカーが1社、銅箔メーカーが2社、テストボードを製造するメーカーが2社あるだけだ。半導体製造に再投資するのであれば、サプライチェーンの他の要素にも再投資する必要がある。軍事防衛関連のビジネスだけでは、この業界を維持することはできない」(同氏)
HR 7677を支持する米下院の現職議員。カリフォルニア州のAnna Eshoo氏(民主党)、ユタ州のBlake Moore氏(共和党)、ネバダ州のDina Titus氏(民主党)、インディアナ州のFrank Mrvan氏(共和党)[クリックで拡大] 出所:米国EE Times
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
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