クラッド鋼板の曲げ振動で風邪コロナウイルス検知:他のウイルスにも応用期待
東北大学と山梨大学は東北特殊鋼と共同で、鉄コバルト/ニッケルクラッド鋼板の表面にタンパク質CD13を固相化させる技術を開発した。このクラッド鋼板を用い、風邪コロナウイルスの1つである「HCoV-229E」を検知することに成功した。
0.2mm厚のFe-Co/Niクラッド鋼板で出力は1cm3当たり約12.2mW
東北大学と山梨大学は2022年12月、東北特殊鋼と共同で、鉄コバルト/ニッケル(Fe-Co/Ni)クラッド鋼板の表面にタンパク質CD13(アミノペプチダーゼN)を固相化させる技術を開発したと発表した。このクラッド鋼板を用い、風邪コロナウイルスの一つである「HCoV-229E」を検知することに成功した。
今回開発した厚み0.2mmのFe-Co/Niクラッド鋼板は、共振周波数が116Hz、加速度170m/sec2の曲げ振動で、約8.4Vの出力電圧を得ることができる。出力電力として、約0.414mW(クラッド鋼板1cm3当たり約12.2mW)を確認した。
研究グループは今回、Fe-Co/Niクラッド鋼板に整流蓄電回路と無線機を組み合わせ、振動発電による電力を活用したワイヤレス送信システムを試作した。振動蓄電回路を工夫した結果、発電で蓄えた電力によって、5分に1回の間隔で情報を送信することができた。永久磁石でバイアス磁場を印加すると振動発電量が増え、10秒に1回の間隔で送信が可能となった。逆に、受信側から見れば、情報の受信間隔から、振動しているFe-Co/Niクラッド鋼板の周波数変化(または発電量)が分かるため、クラッド鋼板に作用する荷重の変化を検知することができるという。
さらに研究グループは、Fe-Co/Niクラッド鋼板を用いて「風邪コロナウイルスセンシングシステム」の開発に取り組んだ。具体的には、Fe-Co/Niクラッド鋼板の表面に金(Au)フィルムをスパッタし、表面のさび防止処理などを行った後、「11-メルカプトウンデカン酸(11-MUA)」に浸した。11-MUAはクラッド鋼板表面に−COOH基を持つ自己組織化単分子膜を形成するという。
これを、「1-エチル-3-[3-ジメチルアミノプロピル]カルボジイミド(EDC)」と「N-ヒドロキシスルホスクシンイミド(NHS)」に浸し、EDC/NHSを−COOH基と反応させ、アミン反応性の「スルホ-NHSエステル」を形成した。最後に、Fe-Co/Niクラッド鋼板をCD13タンパク質溶液に浸すことで、風邪コロナウイルスセンシングシステムが完成するという。
センシングシステムの実験では、研究グループが精製したHCoV-229Eを用いた。前処理として、Fe-Co/Niクラッド鋼板をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)ですすぎ、表面に付着した未反応のCD13を除去するなどした。実験の結果、CD13が固相化したFe-Co/Niクラッド鋼板に曲げ振動を与えて共振させると、共振周波数はPBSと反応して減少した。HCoV-229Eが吸着すると、その値はさらに小さくなったという。こうした共振周波数の変化量から、HCoV-229Eを検出できることが分かった。
開発した風邪コロナウイルスセンシングシステムはHCoV-229Eの他、「HCoV-NL63」や「HCoV-HKU1」「HCoV-OC43」、さらには重篤な症状を引き起こす可能性がある「MERS-CoV」や「SARS-CoV」といったウイルスへの応用が期待されている。
今回の研究は、東北大学大学院環境科学研究科(工学部材料科学総合学科)の成田史生教授らによるグループと、山梨大学大学院総合研究部の井上久美准教授によるグループおよび、東北特殊鋼が共同で行った成果である。
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