「におい」センサーから「人工電子鼻」への遠い道のり:福田昭のデバイス通信(401) 2022年度版実装技術ロードマップ(25)
今回は、ヒトの嗅覚に近い機能を備えるセンシングシステム「人工電子鼻(e-Nose:Electronic Nose)」の概要をご説明する。
ヒトの「鼻」と同様の機能実現を目指す「人工電子鼻」
電子情報技術産業協会(JEITA)が3年ぶりに実装技術ロードマップを更新し、「2022年度版 実装技術ロードマップ」(書籍)を2022年7月に発行した。本コラムではロードマップの策定を担当したJEITA Jisso技術ロードマップ専門委員会の協力を得て、ロードマップの概要を本コラムの第377回からシリーズで紹介している。
本シリーズの第398回からは、第2章「注目される市場と電子機器群」の第3節(2.3)「ヒューマンサイエンス」の第3項(2.3.3)「人間拡張」から7つ目の項目「2.3.3.7 嗅覚」の概要を紹介している。第398回では「嗅覚」の基本的な存在意義(危険の感知)と、「におい」の元となる主な化学物質、「におい」を感じる仕組み、それから「におい」が主観的で曖昧かつ複雑な存在であることをご説明した。
第2章第3節(2.3)「ヒューマンサイエンス」と第3項(2.3.3)「人間拡張」の目次。赤線の枠で囲んだ部分(「2.3.3.7 嗅覚」)の概要を第398回から述べている[クリックで拡大] 出所:JEITA Jisso技術ロードマップ専門委員会(2022年7月7日に開催された完成報告会のスライド)
複雑で抽象的な存在である「におい」を定量化する(数値化する)手法は、ヒトの嗅覚に頼る「嗅覚測定法(官能試験法)」と、バイオセンシング技術や電子技術、情報処理技術などを駆使する「成分濃度表示法(機器分析法)」に大別される。前々回は「嗅覚測定法(官能試験法)」の概要を説明した。続いて前回は、「成分濃度表示法(機器分析法)」の概要と、その中で「複合成分濃度表示法」の一部として「におい」センサーを報告した。
今回はヒトの嗅覚に近い機能を備えるセンシングシステム「人工電子鼻(e-Nose:Electronic Nose)」(「電子鼻」「人工鼻」とも呼ぶ)の概要を簡単にご説明する。なおこの部分はロードマップ本体には記載されていないので留意されたい。
センサーアレイとコンピューティングを組み合わせる
「電子鼻(e-Nose)」の目指すところは、ヒトと同様に「におい」を識別する機能を備えており、なおかつ「悪臭」や「香り」などの臭気をリアルタイムで検知して認識するシステムである。もちろん、ヒトの嗅覚と類似の高度な機能を備えたシステムはまだ実現されていない。
現在の主流となっている電子鼻は、ガスの種類によって応答の異なるセンサーをアレイ化したセンサーアレイ集積化チップと、センサーアレイチップの出力を分析して「におい」として認識するコンピューティングユニットで構成したシステムである。分析と認識には、多変量解析や出力アレイのパターン認識などが使われる。また最近では、多変量解析やパターン認識などに機械学習が活用されている。
フランスのAlpha MOSが1993年に初めて電子鼻システムを開発
電子鼻システムを世界で初めて商用化したのはフランスのツールーズに本社を置くAlpha MOSである。1992年に設立された。1993年には電子鼻システムを発売した。1998年にはパリの証券取引所に上場を果たしている。
Alpha MOSは電子鼻システム「Heracles」シリーズを継続して改良してきた。2018年には第3世代品(最新世代品)の「Heracles Neo」を発売した。このほか味覚センシングシステムや視覚センシングシステムも開発し、販売している。2008年には日本法人「アルファ・モス・ジャパン」を設立した。
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