人間の能力を拡張する実装技術:福田昭のデバイス通信(392) 2022年度版実装技術ロードマップ(16)
JEITAの「2022年度版 実装ロードマップ」を紹介するシリーズ。今回から、第3項(2.3.3)「人間拡張」の概要を説明する。
人間の能力を補完し、強化する「人間拡張」
電子情報技術産業協会(JEITA)が3年ぶりに実装技術ロードマップを更新し、「2022年度版 実装技術ロードマップ」(書籍)を2022年7月に発行した。本コラムではロードマップの策定を担当したJEITA Jisso技術ロードマップ専門委員会の協力を得て、ロードマップの概要を本コラムの第377回からシリーズで紹介している。
本シリーズの前回までは、第2章「注目される市場と電子機器群」の第3節(2.3)「ヒューマンサイエンス」より第2項(2.3.2)「メディカル」の概要を述べてきた。今回からは第3項(2.3.3)「人間拡張」の概要説明に入る。
「人間拡張」とは、人間の能力を補ったり高めたりするとともに、新たな能力を人間に獲得させる技術の総称である。「ヒューマン・オーグメンテーション(Human Augmentation)」あるいは「オーグメンテッド・ヒューマン(Augmented Human)」とも呼ばれる。
そもそも人類の歴史は、広い意味での人間拡張の歴史であるとも言える。石器や鉄器などから始まり、馬車や鉄道、自動車、飛行機なども身体能力の拡張と考えられる。眼鏡は視覚の補完、望遠鏡は視覚の拡張とみなせる。
最近になって注目を集めている「人間拡張」は20世紀以降の要素技術の集合体であり、エレクトロニクス、メカトロニクス、無線通信、ネットワーク、センサー、コンピューティング、機械学習、ライフサイエンスといった技術を駆使する。

第2章第3節(2.3)「ヒューマンサイエンス」と第3項(2.3.3)「人間拡張」の目次[クリックで拡大] 出所:JEITA Jisso技術ロードマップ専門委員会(2022年7月7日に開催された完成報告会のスライド)
身体、感覚、認知、存在が拡張の対象
「人間拡張」が対象とする人間の能力は、大きく4つに分かれる。「身体の拡張」「感覚の拡張」「認知の拡張」「存在の拡張」である。
「身体の拡張」とは、身体の機能を補完したり高めたりする技術を指す。眼鏡やコンタクトレンズから始まり、義手・義足、パワーアシストスーツ、人工心臓(補助人工心臓)などが既に実用化されている。
「感覚の拡張」とは、五感を補助あるいは強化する技術を指す。五感には「視覚」「聴覚」「触覚」「味覚」「嗅覚」があり、「視覚」と「聴覚」に関しては拡張技術が商用化済みだ。例えば視覚にはスマートグラス、聴覚には補聴器と人工内耳がある。
「認知の拡張」とは、脳の能力を拡張する技術を指す。認知機能の補完や強化、学習機能や記憶機能の補完や強化などが研究されている。
「存在の拡張」とは、遠隔地に自分(自己)が存在するように見せることで、体験や操作などをリモートで実行する技術を指す。自己の分身となるロボットを通じた感覚の共有と操作(「アバターロボット」と呼ぶ)、仮想現実感技術による旅行やスポーツなどのバーチャル体験、他者の身体感覚や五感などを自己の体験とする、といった研究がある。一部の技術は実用化が進んでいる。
「触覚」「味覚」「嗅覚」のセンシング技術を解説
「2022年度版 実装技術ロードマップ」では、2017年度版と2019年版に続き、人間拡張の要素技術を記述した。特にこれまでほとんど実用化されていない、「触覚」の力覚センサーと触覚センサー、「味覚」の味覚センサー、「嗅覚」の匂いセンサーを取り上げて現状を解説した。また2つの感覚が相互に影響する「クロスモーダル(Cross-modal correspondence)」についても記述した。

実装技術ロードマップで取り上げた「人間拡張」の要素技術。黒下線部は2017年度版と2019年版で説明した。赤下線部は今回の2022年度版で取り上げたテーマ[クリックで拡大] 出所:JEITA Jisso技術ロードマップ専門委員会(2022年7月7日に開催された完成報告会のスライド)
このほか、「視覚」のスマートグラスとホログラムにもふれている。詳しくは次回以降でご説明したい。
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