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2024年半導体市場の2ケタ成長は可能なのか? ―― WSTS春季予測を考察大山聡の業界スコープ(66)(2/2 ページ)

2023年6月6日、WSTS(世界半導体統計)は2023年および、2024年の半導体市場予測を発表した。半導体市場のこれまでの状況を踏まえながら、今後の見通しについて考えてみたいと思う。

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アナログ/マイクロ/ロジックは、軒並みマイナス

 次にICの市場規模予測を見ていこう。ICはアナログ、マイクロ、ロジック、メモリに類別される。

2023年春季半導体市場予測
2023年春季半導体市場予測[クリックで拡大] 出所:WSTS

 アナログの2023年市場規模は同5.7%減という予測。2023年1〜4月実績を見ると同5.8%減、2021〜2022年の高い成長率から一転してマイナス成長に落ち込んでいる。アナログ市場の約半分が通信機器向けで、その中の約7割を携帯端末が占めている。そのため、スマホ市場の低迷が大きく影響しているのが現状だろう。WSTSの予測は順当に見える。2024年は同6.0%増という予測だが、スマホ市場が好転してくれれば十分達成可能だろう。世界市場のどこかで5Gサービスが立ち上がれば、スマホの需要にも拍車がかかるはずである。

 MPUとMCUで構成されるマイクロの2023年市場規模は同9.6%減という予測。2023年1〜4月実績は同19.3%減で、これまでに見たこともないような低調ぶりである。特にマイクロ市場の約3分の2を占めるMPUが2023年1〜4月実績で同36.0%減と低迷し、PC需要の低迷を如実に物語っている。ただしMCUは2023年1〜4月実績が同18.5%増という成長ぶりで、車載向けを中心に好調に推移している。MPUとMCUの両市場は対照的な動向を示している。マイクロ全体の2024年市場規模は同6.1%増という予測だが、MPUの落ち込みがいつまで続くのかがポイントである。PC需要が少しでも復活すれば、この程度の成長は十分達成可能だろう。

 ロジックの2023年市場規模予測は同1.8%減だった。2023年1〜4月実績は同11.0%減で、アナログ市場と同様、需要の半分近くを支える通信機器からの需要が低迷しているために大きな落ち込みを見せている。スマホ需要が低迷し続ければ、WSTSのマイナス予測を下回る可能性もあるだろう。2024年は同6.8%増とプラス成長を予測しているが、やはり5Gサービスの立ち上がりに期待するほかなさそうである。

23年のメモリは大幅減も、24年は43%成長の強気予想

 メモリの2023年市場規模予測は同35.2%減。2023年1〜4月実績は同56.8%減。前回のメモリ市況低迷期は前年比40%減程度の落ち込みに留まっていたので、かなり深刻な状況であることが分かる。2023年後半にメモリ市況が回復する保証はないが、メモリ市場が2022年7月から急速に悪化していることを考えると、2023年7月以降については前年同月比成長率が回復していく確率が高い。その点を考慮すれば、年間の下落幅はもう少しマシなレベルに収まるはずで、WSTSの予測は順当と言えるだろう。ただしこれは集計上の話で、実際にはPC、スマホ、データセンターといった主要アプリケーションからの需要が復活してくれることが望まれる。2024年は同43.2%増と強気な予測だが、主要アプリケーションからの需要が回復されれば十分達成可能な予測でもある。今回のメモリ不況は、DRAMもNAND型フラッシュメモリも出荷数量の落ち込みが原因で、大きな単価下落が見られない点が気になる。DRAMは2023年4月に大口価格がかなり下落したようだが、NANDフラッシュの大口単価はあまり下落していない。両メモリ市場とも明らかに供給過剰状態にある。過去の市況回復のパターンに倣うのであれば、「単価が下落することで、需要が活性化する」という回復シナリオが自然と思われる。今後のメモリ製品の単価動向に着目したい。

2024年プラス成長のカギは「5Gサービス」か

 全体の結論として、2023年半導体市場成長率は前年比10.3%減というWSTSの予測には賛同できる。だが、翌2024年のプラス成長については少し不透明だ。成長実現に向けて、何がキッカケでいつ市況が好転するのか、が重要なポイントになる。本文中でも何度か触れてきたが、筆者としては「5Gサービスが世界市場のどこかで立ち上がり、それをキッカケにスマホ、PC、データセンターなどのアプリケーションからの半導体需要が活性化すること」に着目したいと思っている。筆者は本連載で、半年前の2022年12月にも同様の主張を述べている。だが、残念ながらこの半年間、5Gサービスの立ち上がりは確認できていない。これが最大の原因でメモリ、ロジック、アナログなどの市場が低迷しているわけだが、逆に5Gサービスさえ立ち上がってくれれば、主要アプリケーションは一気に活気づき、半導体需要も一気に好転できるはずだ、と期待している。

 昨今では、ChatGPTなどのAI関連サービスが注目を集めており、これが半導体市況好転のキッカケになるのではないか、などという期待もあるようだ。ちなみにNVIDIAが2023年5月25日に発表した2〜4月期の四半期決算は売上高が前年比13%減の72億米ドルに終わったものの、2023年5〜7月期については「売上高110億米ドル(前年比64%増)」という強気の見通しをコメントした。NVIDIAのGPUがAI関連でサーバー向けに強い需要が見込めるためで、この不況期に異例ともいえる強気見通しである。昨今のAIサービスでは、同社には強い追い風が吹いているようだ。しかし、同社以外にあまりポジティブな影響が出ていないこと、新たなハードウェア端末需要が生み出されていないこと、を考えると、昨今のAIサービスだけでは半導体市場への影響が限定的だといわざるを得ないだろう。ここはやはり、5Gサービスの立ち上がりに期待しつつ、端末の刷新やデータセンター投資の再燃に期待したいところである。

連載「大山聡の業界スコープ」バックナンバー

筆者プロフィール

大山 聡(おおやま さとる)グロスバーグ合同会社 代表

 慶應義塾大学大学院にて管理工学を専攻し、工学修士号を取得。1985年に東京エレクトロン入社。セールスエンジニアを歴任し、1992年にデータクエスト(現ガートナー)に入社、半導体産業分析部でシニア・インダストリ・アナリストを歴任。

 1996年にBZW証券(現バークレイズ証券)に入社、証券アナリストとして日立製作所、東芝、三菱電機、NEC、富士通、ニコン、アドバンテスト、東京エレクトロン、ソニー、パナソニック、シャープ、三洋電機などの調査・分析を担当。1997年にABNアムロ証券に入社、2001年にはリーマンブラザーズ証券に入社、やはり証券アナリストとして上述企業の調査・分析を継続。1999年、2000年には産業エレクトロニクス部門の日経アナリストランキング4位にランクされた。2004年に富士通に入社、電子デバイス部門・経営戦略室・主席部長として、半導体部門の分社化などに関与した。

 2010年にアイサプライ(現Omdia)に入社、半導体および二次電池の調査・分析を担当した。

 2017年に調査およびコンサルティングを主務とするグロスバーグ合同会社を設立、現在に至る。


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