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東工大ら、高伝導率のリチウムイオン伝導体を開発厚膜型全固体Li金属電池を実現

東京工業大学と高エネルギー加速器研究機構、東京大学の研究グループは、伝導率が32mS cm-1という固体電解質のリチウムイオン伝導体を開発した。この材料を用い厚膜が1mmの正極を作製したところ、電極面積当たりの容量が現行の1.8倍となった。

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厚み1mmの電極で、電極面積当たりの容量を現行の1.8倍に

 東京工業大学と高エネルギー加速器研究機構、東京大学の研究グループは2023年7月、伝導率が32mS cm-1という固体電解質のリチウムイオン伝導体を開発したと発表した。この材料を用い厚膜が1mmの正極を作製したところ、電極面積当たりの容量が現行の1.8倍となった。

 研究グループは、全固体電池の実用化に向けて、有機電解質を超えるイオン伝導率(10mS cm-1程度)を備えた材料開発に取り組んできた。その1つがLi10GeP2S12(27℃で12mS cm-1)である。これをベースにイオン伝導特性の最大化を目指した。ここで着目したのが「化学組成の高エントロピー化」である。

 具体的には、Li10GeP2S12の結晶構造を維持しつつ、組成を高エントロピー化することで、新たな材料「 Li9.54[Si0.6Ge0.41.74P1.44S11.1Br0.3O0.6」を開発した。新材料のイオン伝導率は、室温25℃において32mS cm-1となった。この値は、−50〜55℃の温度範囲において従来材料の2.3〜3.8倍だという。

 研究グループは、新材料の結晶構造を調べるため、大強度陽子加速器施設「J-PARC」に設置された特殊環境中性子回折装置「SPICA(BL09)」を用い、中性子回折データを測定した。解析の結果、不規則な元素配列の存在が分かった。さらに第一原理計算を行い、一次元のLiイオン伝導経路を対象に、元素の分布がイオン伝導に与え得る影響を調べた。この結果、新材料のモデルだと、Liイオンが移動する際のエネルギー障壁は、高さが半分になることが分かった。これによって、高いイオン伝導性が得られることを確認した。

上図は従来の固体電解質と新材料のイオン伝導性比較。下図は新材料の基本組成における物質の結晶構造
上図は従来の固体電解質と新材料のイオン伝導性比較。下図は新材料の基本組成における物質の結晶構造[クリックで拡大] 出所:東京工業大学
第一原理計算で明らかになった一次元のLiイオン伝導経路における移動障壁と元素分布の関係
第一原理計算で明らかになった一次元のLiイオン伝導経路における移動障壁と元素分布の関係[クリックで拡大] 出所:東京工業大学

 開発した材料による電極の厚膜化では、「粉体の乾式混合」というシンプルな製造プロセスを採用した。厚膜電極の充放電特性を測定したところ、厚み1mm(容量理論値:29mAh cm-2)の電極で、容量理論値の90%を取り出せたという。厚み0.8mmの電極だと、室温25℃で容量理論値の100%が放電可能となり、−30℃の低温環境でも70%の容量を取り出せた。

 さらに、この厚膜電極とLi金属負極を組み合わせ、厚膜型の全固体Li金属電池セルを作製した。試作したセルでは、60℃の温度環境において、10mA cm-2を超える電流密度で20mAh cm-2以上の容量を放電させられることが分かった。

 今後の課題として研究グループは、「Li金属側における電極構造の最適化」や、「界面改質の技術と組み合わせて充電過程の改善を図ること」を挙げた。

新材料を用いた厚膜正極の充放電特性(左は厚み1mm、右は同0.8mm)
新材料を用いた厚膜正極の充放電特性(左は厚み1mm、右は同0.8mm)[クリックで拡大] 出所:東京工業大学
左は厚膜正極(0.8mm)とLi金属負極を組み合わせた全固体電池の放電容量、右は従来の全固体Li金属負極対称セルにおける特性との比較
左は厚膜正極(0.8mm)とLi金属負極を組み合わせた全固体電池の放電容量、右は従来の全固体Li金属負極対称セルにおける特性との比較[クリックで拡大] 出所:東京工業大学

 今回の研究成果は、東京工業大学科学技術創成研究院全固体電池研究センターの堀智特任准教授、菅野了次特命教授、高エネルギー加速器研究機構物質構造科学研究所の齊藤高志特別准教授、東京大学生産技術研究所の溝口照康教授らによるものである。

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