6G向けサブテラヘルツ帯フェーズドアレイ無線機IC:半二重通信では112Gbpsを達成
東京工業大学は、6G(第6世代移動通信)に向けて、サブテラヘルツ帯で全二重通信を可能とする「フェーズドアレイ無線機IC」を開発した。モバイル端末やIoT機器などへの搭載を視野に入れている。
新たなアンテナ構成などにより、全二重通信を可能に
東京工業大学工学院電気電子系の岡田健一教授らによる研究チームは2023年6月、6G(第6世代移動通信)に向けて、サブテラヘルツ帯で全二重通信を可能とする「フェーズドアレイ無線機IC」を開発した。モバイル端末やIoT機器などへの搭載を視野に入れている。
6Gシステムでは周波数帯として、より広帯域が確保できるサブテラヘルツ帯の利用が計画されている。高速かつ大容量通信に加え、低遅延や多数同時接続といった通信を実現するためである。ただ、高い周波数帯を利用する無線機では、高周波信号の自己干渉が課題となり、これまで全二重通信が極めて難しかったという。
そこで研究チームは、高周波信号の自己干渉を抑制するためのアンテナ構成と、自己干渉をキャンセルするための広帯域高精細移相器を新たに開発した。アンテナ構成は、水平と垂直の両偏波に対応するパッチアンテナを、極めて対称性の高い差動回路によって励振をするもので、不整合による自己干渉を大きく低減できるという。
また、可変利得増幅器とスイッチ型移相器で構成される「自己干渉キャンセル回路」を新たに開発した。これにより、「50dBの可変利得」と「0.42度分解能」「360度の位相可変」を可能とし、アンテナからの自己干渉をキャンセルすることが可能となった。さらに、無線機にダイレクトコンバージョン方式を採用したことで、LOリークの少ないミキサー構成が可能となり、88G〜136GHzの広帯域増幅器を実現した。
研究チームは今回、最小配線半ピッチ65nmのシリコンCMOSプロセスを用い、開発したフェーズドアレイ無線機ICを作製した。このICを二重偏波アンテナ搭載のプリント基板に実装し、実験室内でOTA測定を行った。この結果、サブテラヘルツ帯での全二重通信動作を確認。8PSK変調で6Gビット/秒(bps)、16QAM変調時は4Gbpsの全二重通信を実現した。自己干渉抑制回路によって、最大20dBcの抑圧比改善ができていることも分かった。
なお、開発したフェーズドアレイ無線機ICによるサブテラヘルツ帯の半二重通信では、これまでの最高となる112Gbpsの通信速度を達成したという。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 東工大、スパコン「TSUBAME4.0」が2024年春に稼働
東京工業大学学術国際情報センター(以下、GSIC)は、2024年春の稼働に向けて次世代スーパーコンピュータ「TSUBAME4.0」の構築を始める。国内のスパコンとしては「富岳」に次ぐ性能だという。 - 東工大ら、PIM型NNアクセラレーターのマクロを開発
東京工業大学と工学院は、モバイルエッジデバイスに搭載可能な、PIM(プロセッシングインメモリ)型ニューラルネットワーク(NN)アクセラレーターのマクロを開発した。動作時と待機時の電力消費が極めて小さく、高い演算能力とエネルギー効率を実現できるという。 - 最高の酸化物イオン伝導度を示す酸塩化物を発見
東京工業大学は、200℃以下の低温域で酸化物イオン伝導度が最高値となる、新たな「酸塩化物」を発見した。その結晶構造とイオン拡散経路、酸化物イオン伝導度のメカニズムも解明した。 - 水素を活用、酸化物熱電材料の熱電変換効率を向上
東京工業大学は、チタン酸ストロンチウムの多結晶体に水素を取り込むことで、「低い熱伝導率」と「高い電気出力」を同時に実現し、熱電変換効率を高めることに成功した。 - 巨大なスピン振動による非線形の応答を観測
京都大学と東京大学、千葉大学、東京工業大学らの研究グループは、らせん状の金属メタマテリアル構造を反強磁性体「HoFeO3」に作製し、その内部に最大約2テスラのテラヘルツ磁場を発生させ、巨大なスピン振動による非線形の応答を観測した。 - 耐放射線Ka帯フェーズドアレイ無線機を開発
アクセルスペースと東京工業大学は、低軌道通信衛星コンステレーションに向けて「放射線耐性の高いKa帯無線機」を開発した。「Beyond 5G」に向けて、小型衛星の通信速度を大幅に向上させられる技術だという。