蓄電池電極内で容量が劣化する情報を非破壊で取得:5次元の情報解析でより詳細に理解
東北大学を中心とする共同研究グループは、充放電による蓄電池電極内の容量劣化に関する情報を、定量的かつ非破壊で取得できる手法を開発した。この技術を用いると、蓄電池の性能劣化について、迅速かつ効率的にその要因を特定することができ、長寿命の蓄電池開発につながるとみている。
迅速かつ効率的に、性能劣化の要因が特定可能に
東北大学を中心とする共同研究グループは2023年7月、充放電による蓄電池電極内の容量劣化に関する情報を、定量的かつ非破壊で取得できる手法を開発したと発表した。この技術を用いると、蓄電池の性能劣化について、迅速かつ効率的にその要因を特定でき、長寿命の蓄電池開発につながるとみている。
リチウムイオン電池などの蓄電池は、充放電を繰り返し行うと、蓄電容量などの性能が次第に劣化し、電池を利用できる時間が短くなる。こうした課題を解決するには、性能劣化のメカニズムを理解する必要がある。
研究グループは今回、大型放射光施設「SPring-8」のBL37XUで得られる高輝度のX線を活用した「コンピュータ断層撮影−X線吸収微細構造法(CT-XAFS法)」を駆使することで、充放電サイクル中における活物質の充電状態(Li量)を追跡できる手法を開発した。
この手法を用いると、蓄電池電極内の数百立法マイクロメートル(μm3)〜数立法ミリメートル(mm3)という観察領域におけるLi量について、3次元的な空間分布とその時間進展を、数マイクロメートルや数十分といった分解能で、非破壊かつ定量的に追跡できるという。
これにより、蓄電池の劣化に関して「3次元空間分布」と「時間進展」および、「化学情報」という5次元的な情報を取得し、解析することが可能となった。開発した手法で得られたデータに対し、差分画像解析を行えば、充放電プロセスの「どこで」「どの程度の」劣化が生じたかを3次元的に可視化できる。また、電極劣化と過去の反応履歴との関係を調べることも可能だという。
さらに、電極について微細構造の情報も同時に取得できるという。このため、電極の微細構造と劣化との関係を分析することも可能である。
今回の研究成果は、東北大学多元物質科学研究所の木村勇太助教と石黒志助教、中村崇司准教授、雨澤浩史教授、大学院工学研究科機械機能創成専攻の黄溯大学院生、高輝度光科学研究センターの関澤央輝主幹研究員、新田清文研究員、宇留賀朋哉任期制専任研究員、産業技術総合研究所の奥村豊旗主任研究員、竹内友成上級主任研究員、名古屋大学の唯美津木教授(理化学研究所放射光科学研究センター客員研究員)および、京都大学の内本喜晴教授らによるものである。
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