東北大、完全表面結晶化ガラスファイバーを創製:90%以上の光透過率を達成
東北大学は、光透過率が90%以上という透明多結晶性セラミックス「完全表面結晶化ガラスファイバー」を作り出すことに成功した。光ファイバー通信システムのさらなる大容量化が可能となる。
光ファイバー通信システムのさらなる大容量化を可能に
東北大学は2023年7月、光透過率が90%以上という透明多結晶性セラミックス「完全表面結晶化ガラスファイバー」を作り出すことに成功したと発表した。光ファイバー通信システムのさらなる大容量化が可能となる。
藤原巧教授らの研究グループはこれまで、ガラスと結晶の複合材料「結晶化ガラス」に着目してきた。ケイ酸塩ガラスを熱処理することで、ガラス全体にストロンチウム(Sr)、チタン(Ti)、シリコン(Si)の複合酸化物であるSr2TiSi2O8結晶が、緻密かつ一方向に並んで析出した「完全表面結晶化ガラス」を開発してきた。二次非線形光学効果の発現も確認している。ただ、ファイバー化に必要な透明性を実現することが、これまではできなかったという。
完全表面結晶化ガラスは、Sr2TiSi2O8結晶の組成に対してTiO2とSiO2を過剰に加えた前駆体ガラスから得られる。表面にSr2TiSi2O8結晶が形成された後、前駆体ガラス中の余剰成分は、Sr2TiSi2O8結晶ドメイン(領域)内部および、ドメイン間にガラス状態で閉じ込められるという。
研究グループは今回、適切な熱処理によって組織構造を制御し、割れや空孔が全くない「完全表面結晶化ガラスファイバー」を作製することに初めて成功した。断面は「放射状の配向結晶構造」となっている。また、試料中心に生じるはずの空孔が、余剰のガラス成分で補填(ほてん)されるという「空孔抑制機構」も、透過型電子顕微鏡などによる検査で明らかになった。余剰ガラス成分の屈折率はSr2TiSi2O8結晶と極めて近く、均一であるため、ファイバーの透明性を保つことができるという。光通信波長1550nmで光損失測定を行ったところ、90%以上の光透過率となった。
今回の研究は、東北大学大学院工学研究科応用物理学専攻大学院生の中村拓真氏(日本学術振興会特別研究員)や藤原巧教授、高橋儀宏准教授および、同大学大学院工学研究科技術部の宮崎孝道技術専門職員らが共同で行った。
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